京都地方裁判所 平成4年(行ウ)31号 判決 1995年9月29日
原告
四代目会津小鉃
右代表者会長
甲野太郎
右訴訟代理人弁護士
南出喜久治
同
若松芳也
同
李宇海
同
遠藤誠
被告
京都府公安委員会
右代表者委員長
小谷隆一
右訴訟代理人弁護士
村田敏行
同
置田文夫
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告が、平成四年七月二七日、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(平成五年法律第四一号による改正前のもの・以下、暴対法または法という。)三条に基づいてなした、原告を指定暴力団として指定する旨の処分(以下、本件指定処分という。)を取り消す。
第二 事案の概要
一 訴訟物
本件は、被告が平成四年七月二七日付けでした、原告を、暴対法三条の規定する暴力団(以下、指定暴力団という。)として指定した本件指定処分に対し、原告が、暴対法の違憲性、指定要件の欠缺等を主張して、本件指定処分の取消を求めた抗告訴訟である。
二 争いのない事実
1 原告は、肩書地に本拠を置き、その代表者は会長甲野太郎である。
2 原告は、被告から、平成四年七月二七日、暴対法三条の規定による本件指定処分を受けたが、これを不服として、同年八月三日、国家公安委員会に対し、審査請求をしたところ、同委員会は、同年一〇月二九日、その請求を棄却する旨の裁決をした。
3 被告は、警察法三八条一項に基づき、京都府知事の所轄の下に設置された京都府の機関であり、本件指定処分をなした機関である。
国家公安委員会及び警察庁は、警察法に基づき設置された国の機関であり、内閣の統括下にある。
京都府警察は、警察法及び地方自治法に基づき、国の警察事務を団体委任された都道府県警察の一つであり、京都府の機関である。
国会は、国の機関であり、衆議院、参議院及びその各常任委員会である地方行政委員会等によって構成されている。
4 警察庁は、暴力団対策研究会(会員一五名)を発足させ、同研究会は、平成二年一一月二九日、同年一二月二一日、平成三年一月一六日、同年二月六日の審議を経て、同日、「暴力団対策に係る立法についての意見」をまとめ、この中で、また、同月二七日、「暴力団対策に関する法律案の基本的考え方」という法案の骨子を発表し、この中で、「暴力団組織」という用語を用いた。
日本弁護士連合会は、同年三月一五日、「暴力団対策に関する法律案の基本的考え方についての意見」を発表し、法律案の問題点を指摘した。
警察庁は、同年四月、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(仮称)案の骨子」を発表し、内閣は、同月一二日右法律案を国会に提出した。
日本弁護士連合会は、法案提出後の同年四月一九日、再び意見書を提出した。
5 国会は、各地方行政委員会において、別紙一記載の附帯決議(以下、附帯決議ともいう。)をなしたうえ、平成三年五月一五日、暴対法を成立させた。
その後、政府は、暴対法の規定に基づき、同年一〇月二五日、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行令(平成三年政令第三三五号・以下、施行令という。)を制定し、国家公安委員会は、同日、暴対法に基づき、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行規則(国家公安委員会規則第四号・以下、施行規則という。)、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定に基づく聴聞の実施に関する規則(国家公安委員会規則第五号・以下、聴聞規則という。)を制定した。
なお、暴対法、施行令、施行規則及び聴聞規則の施行期日はいずれも平成四年三月一日である。
6 警察庁は、暴対法による指定暴力団の指定権限がないが、その施行前である平成四年一月二九日、指定方針に関する広報を行い、原告を指定予定団体として発表した。さらに、警察庁長官は、同年二月二六日、全国暴力団対策主管課長会議において、暴力団の間に暴対法の指定逃れの動きや抗戦の構えが見えるのでスムーズな施行に全力を挙げよ、と訓示した。
7 被告は、原告に対し、平成四年四月二四日、その肩書地において、指定聴聞のための同日付聴聞通知書(四京公安第五〇六号)を送達した。
これに対し、原告は、関係法令施行前の前記警察庁の発表に京都府公安委員会の関与があるにもかかわらず、これが是正されないまま送達されたものであるから、右通知書の受領を拒絶すべき正当な理由があるとして受領を拒絶した。
しかし、被告は、右理由を無視し、同日差置送達処分に付した。
右聴聞通知書には、別紙二記載のとおり、「指定をしようとする理由」の記載がなされていた。
8 本件聴聞は、平成四年五月二一日午後一時三〇分から実施された。
被告は、原告のした忌避の申出を却下し、審理の冒頭において、前記聴聞通知書の「指定をしようとする理由」欄記載と同様の内容を告知し、原告が暴対法の違憲性について陳述しようとしたことに対し、その陳述を制限し、聴聞を終結する処分をなした。
9 国家公安委員会は、被告が原告を指定暴力団として指定するに際してなした確認請求に対して、平成四年七月九日、これを是とする確認を行い、被告は、同年七月二七日、原告を暴対法三条の指定暴力団として本件指定処分を行った。
第三 争点及び当事者の主張(以下一ないし三において、(1)、(2)等の番号が付された被告の主張は、これと同番号の原告の主張に対応する関係にある。)
一 暴対法全体の違憲性
1 暴対法の立法目的について
(一) 原告の主張
(1) 暴対法は、特定の団体(暴力団)を壊滅させることを目的として制定されたものであるから、暴対法及びその関係法令全体が憲法二一条一項、一四条に違反する。
(2) 原告は、任侠道を信奉する者が結集した団体であり、この任侠道に生きる原告及びその構成員を、暴力団と指定して社会的に差別し、幸福追求権を阻害し、私生活上の自由を侵害する暴対法は、憲法一三条に違反する。
(二) 被告の主張
(1) 暴対法は、市民生活の安全と平穏を確保することを目的としており、暴力団の壊滅を目的としているものではなく、また、同法には、暴力団の活動自体を禁止したり、暴力団の解散を命ずるなどの規定も置かれていないので、暴力団又は暴力団員の集会結社の自由を否定するものではない。
(2) また、暴対法は、一般的に市民に不安、迷惑、被害を与える反社会的かつ不当な指定暴力団員の行為に限って規制するものであり、それ以外の原告及び構成員の私生活の自由に関連する行為については、何ら規制の対象とするものではない。
2 暴対法の立法体系の違憲性について
(一) 原告の主張
(1) 憲法二一条一項で保障する集会結社の自由は、公共の福祉による一般的制約を受けず、集会結社を実現する個別的かつ具体的な行為に「現在かつ明白な危険」があり、「より制限的でない他の選びうる手段」がない場合に限って、当該行為を制限をし得るのであるが、暴対法は、集会結社自体を団体規制するものであるから、憲法二一条一項に違反する。
(2) また、暴対法の規定は、「みだりに」、「おそれ」、「必要があると認めるとき」、「……と認める場合」などの不明確な概念を含むが、このような不明確な概念を含む規定による制約は無制限な拡大を招くこととなり、例外的な制限しか認められない集会結社の自由を保障する憲法二一条一項に違反する。
(3) 暴対法九条は、指定暴力団員の事業活動を一律に禁止するものであり、職業選択、営業の自由を定めた憲法二二条一項に違反する。
(4) 暴対法三四条及び三五条の罰則規定は、都道府県公安委員会(以下、公安委員会という。)が出す命令に違反することを構成要件とするものであるから、右罰則の構成要件は公安委員会の判断と命令に委ねられた白地刑罰規定であり、犯罪構成要件の明確性の原則に反する。
命令違反行為は、あえて刑罰をもって制裁する必要のない行為であって、これについて法三四条及び三五条により処罰することは刑罰(刑法)の謙抑主義に反し、また、右各規定が法定刑として一年以下の懲役を定めているのは罪刑の均衡原則にも違反するものであるから、右各規定は、右諸原則を定める憲法三一条に違反する。
(5) 暴対法一五条、一八条、一九条は、暴力団事務所やそこに所在する物品の所有権その他の権原の態様、帰属主体等を考慮せず、一律にそれらの使用の禁止等を内容とする命令を認めるものであるにもかかわらず、当該事務所等の所有者らに対する損失の補償を全く予定していないものであるから、財産権の保障を定めた憲法二九条一項、二項に違反する。
(6) 暴対法二二条一項は、実質的に無令状捜索差押を認めた規定であり、憲法三五条に、また、立入検査等の結果、信書の開披や自白の強要を許容する規定であるから、憲法二一条二項後段、三八条一項に違反する。
(7) 暴対法一五条、一六条、二〇条二項五号は、暴力団壊滅目的の公権力の干渉規定であり、憲法二一条一項、一四条に違反する。
(8) 警察及び公安委員会は、無指定暴力団であり、その暴力団に他の暴力団を指定する権限を与えたのが暴対法であるから、憲法一三条、三一条に違反する。
(二) 被告の主張
(1) 暴対法は、暴力団員の行為を規制する法律であって、暴力団に対する規制を行うことを内容とするものではない。暴対法三条に基づく指定(以下、三条指定という。)により暴力団を指定するのは、暴対法による規制の対象となる者(暴力団員)を特定するためのものであり、暴力団自体を規制するものでないことは明らかである。したがって、原告の右主張は、その前提に誤りがあり、失当である。
三条指定は、暴力団に対し、「その暴力団員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団」であるとの一定の判断をするだけであり、その効果として暴力団の集会結社の自由を法的に制限するものではないから、憲法二一条一項に関する問題を生ずる余地はない。
仮に、これを暴力団に対する集会結社の自由の制限であるとしても、三条指定は、暴対法による規制の対象となる暴力団員を特定する処分であり、これによって保護しようとする利益は、暴力団員による暴力的要求行為又は暴力団事務所付近における迷惑行為、抗争行為等により侵害される市民生活の安全と平穏であり、公共の福祉による必要かつ合理的な規制であるから、憲法二一条一項に違反するものではない。
(2) また、法律の規定が不明確か否かは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合にその規定が適用されて、そこで定める行為規制を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかどうかによってこれを決定すべきところ、暴対法の規定で原告主張の文言が含まれているものは、いずれも、右判断を可能ならしめるような基準が読み取れるものであるから、不明確な規定であるとは到底いえない。
(3) 暴対法九条は、本件指定処分の手続上及び実体上の要件を定める規定ではなく、同条による行為規制は本件指定処分に係る法律関係とは別個のものであり、仮に同条が憲法に違反するとしても、本件指定処分の適否を左右するものではないから、同条が憲法に違反するとの右主張は、主張自体失当である。
(4) 暴対法三四条及び三五条は、本件指定処分の手続上及び実体上の要件を定める規定ではなく、右各規定により罰則が適用されることは本件指定処分に係る法律関係とは別個のものであり、仮に右各規定が憲法に違反するとしても、本件指定処分の適否を左右するものではないから、右各規定が憲法に違反するとの右主張は、主張自体失当である。
暴対法は、公安委員会が指定暴力団員に対して行い得る命令について、その発出の要件及び範囲を定めており(一一条、一五条、一七条、一九条)、これに基づいて個別具体的に命令が発出され、この命令に違反する行為が処罰の対象になるのであるから(三四条、三五条)、犯罪構成要件が法律上明確に定められているといえる。
三四条及び三五条の刑罰規定は命令を担保するための規定であり、このような行政刑罰の規定を置くか否か、また、どの程度の刑罰にするかは、基本的には立法政策として立法府の裁量に任されるところであり、その裁量の範囲を著しく逸脱しているなどの事情がない限り、憲法三一条に違反するものではない。
また、その法定刑の程度については、他の法律における行政命令を担保するための規定(例えば、建築基準法九八条、自然環境保全法五三条二号)と比較しても、特段重いものではなく、罪刑の均衡を失しているとは到底いえない。
(5) 暴対法一五条、一八条及び一九条は、本件指定処分の手続上及び実体上の要件を定める規定ではなく、右各規定による制限は本件指定処分に係る法律関係とは別個のものであり、仮に右各規定が憲法に違反するとしても、本件指定処分の適否を左右するものではないから、右各規定が憲法に違反するとの右主張は、主張自体失当である。
また、右各規定の適用があるのは原告の構成員であって、原告自身ではないから、原告には右各規定の違憲性を非難する法律上の利益はなく、各規定の憲法違反を主張することは許されない。
(6) 暴対法二二条一項の規定は、本件処分の手続上及び実体上の要件を定める規定ではなく、同項の規定による立入検査等は本件指定処分に係る法律関係とは別個のものであり、仮に右各規定が憲法に違反するとしても、本件指定処分の適否を左右するものではないから、右各規定が憲法に違反するとの主張は、主張自体失当である。
(7) 暴対法一五条、一六条、二〇条は、本件指定処分の手続上及び実体上の要件を定めた規定ではなく、右各法条による行為規制等は、本件指定処分に係る法律関係とは別個のものであり、仮に右各規定が憲法に違反するとしても、本件指定処分の適否を左右するものではないから、右各規定が憲法に違反するとの主張は、主張自体失当である。
(8) 原告の(8)の主張は争う。
3 立法過程における違憲性と運用違憲
(一) 原告の主張
暴対法の提案過程、審議過程及び関係法令の制定過程は、時間的にも内容的にも不十分な検討、審議によるものであるから、立法過程において適正手続を要求した憲法三一条に違反する。
衆参両議院は、法案が付託されたそれぞれの地方行政委員会において、それぞれ付された附帯決議を遵守して、国政調査権を行使すべき義務があるが、これを怠って暴対法を成立させたものであるから、憲法六二条に違反する。
内閣は、暴対法の法案の提出に当たって、その内容が憲法に適合するか否か、法案審議を十分行うことのできる時期と方法が保障されているか否かを配慮すべき義務があるが、これを怠って同法案を提出したものであるから、憲法三一条、九九条に違反する。
警察庁及び内閣は、法案の審議が十分行えない時期をねらって暴対法の法案を提出し、それによって国会における法案審議権を侵害したものであるから、憲法四一条に違反する。
内閣及び国家公安委員会は、暴対法の法案の審議をした衆参両議院の各地方行政委員会においてそれぞれ付された附帯決議を無視して、不備な内容の暴対法及びその関係法令を制定したものであるから、憲法七三条一号、九九条に違反する。
警察庁は、三条指定の権限主体でないにもかかわらず、暴対法施行前に原告ら七団体を指定予定団体として発表し、報道機関にこれを報道させ、各公安委員会はこれを黙認したが、これは警察法及び暴対法の法案の審議をした衆参両議院の各地方行政委員会においてそれぞれ付された附帯決議に違反する行為であるから、憲法七三条に違反する。
(二) 被告の主張
暴対法は、衆参両議院の各地方行政委員会においてそれぞれ審議、採決の上、衆参両議院において全会一致で可決されて成立したものであり、その立法過程において何ら憲法に違反する事由はない。
原告が指摘する衆参両議院の各地方行政委員会で付された附帯決議は、その内容から明らかなとおり訓示的なものであって法的な効力はなく、これが立法手続上何らかの義務を課するものでもないから、仮にこれに違反しても暴対法及びその立法手続の瑕疵になるものではない。
警察庁の広報行為の違法をいう点は、本件指定処分の違法事由とは何ら関係がないものであるから、主張自体失当である。
なお、法案の審議にどの程度の時間をかけるかは専ら各議院の判断によるべき事項であり、その時間の長短により公布された法律の効力が左右されるものでない。
二 暴対法関係法令各条項の違憲性
1 暴対法三条全体の違憲性
(一) 原告の主張
(1) 暴対法三条は、非犯罪行為である指定暴力団員の生計の維持のための資金獲得行為をも否定するものであり、憲法一三条、二五条、一四条、二一条一項、三一条に違反する。
(2) また、①三条指定を受ける暴力団とは、暴対法二条二号及び三条各号のいずれにも該当する場合でなければならないが、本件指定処分は、二条二号の要件の充足性を認定せず、三条各号の要件のみの充足性を認めただけで三条指定をしたものである点、②暴対法二条二号に定める「おそれ」及び三条柱書きに定める「おそれが大きい」との文言の概念は抽象的で、し意的に拡大され得る不明確なものである点、③暴対法は公安委員会に暴力団の職権指定権限を与え、二条二号及び三条各号の要件が認定されれば、義務的に三条指定をするものとしている点、以上の各点において、暴力団要件の設定、指定権限の付与の態様について、内容的にも手続的にも適正手続が保障されていないものであるから、憲法一三条、三一条に違反する。
(二) 被告の主張
(1) 暴対法三条は、指定の対象となる暴力団の要件を定める規定にすぎず、同条自体が暴力団員の行為を規制するものではないから、右主張は、その前提において失当である。
(2) 暴対法二条二号は、その規定の内容から明らかなとおり、暴対法において使用する「暴力団」という用語の定義を定めた規定であって、これが三条指定の要件となるとの右主張は、その前提において失当である。
原告が指摘する文言は、暴対法二条二号及び三条柱書き中にあるものであって、三条指定の要件の要素をなすものではないから、三条指定をするに当たり、右文言のし意的解釈が問題となる余地はなく、右文言が本件指定処分の違憲、違法を導く余地はない。
警察法三八条四項で準用する同法五条三項に基づき、暴対法によって、三条指定の権限が公安委員会に属させられ、三条指定に係る事務を公安委員会が所掌することとなったものである。したがって、公安委員会が三条指定権限を有し、これに係る事務を執行することは、憲法及び警察法の体系上何ら問題はない。
2 暴対法三条一号の違憲性
(一) 原告の主張
(1) 行政手続にも適正手続が要求されるところ、暴対法三条一号の要件である「実質上の目的」の認定は公安委員会の職権的秘密主義に貫かれており、憲法一三条、三一条に違反する。
(2) 暴対法三条一号の要件は不明確な要件であり、同号は漠然性ゆえに無効であるから、これにより団体規制を行うことは憲法二一条一項に違反する。
(二) 被告の主張
(1) 公安委員会が暴力団を三条指定する場合には、暴対法三条各号の要件を充足するか否かについて、聴聞(法五条)、審査専門委員の意見聴取及び国家公安委員会の確認(法六条)という手続を経ることとなっており、適正手続の要求を十分に満たす手続が用意されているから、憲法三一条の趣旨にも合致する。
(2) 暴対法三条一号の規定は不明確なものではないから、右主張はその前提において失当である。
3 暴対法三条二号の違憲性
(一) 原告の主張
(1)イ 犯罪経歴保有者の地位は憲法一四条の社会的身分に該当するものであるところ、この犯罪経歴保有者の比率をもって三条指定の要件とするのは、当該犯罪経歴保有者をその社会的身分により差別するものであり、また、これらの者を構成員とする団体に対する差別となるものであるから、憲法一四条に違反する。
ロ 指定暴力団の地位も社会的身分に該当するものであるところ、その構成員には犯罪経歴を有しない者も含まれているが、その者が指定暴力団の構成員であるということから指定暴力団員という社会的身分が付与され、暴対法に基づく規制がされるという不合理な差別を受けることになるから、憲法一四条に違反する。
ハ 集団の人数の多少により犯罪経歴保有者比率の区分を設けることには関連性及び合理性がなく、憲法一四条に違反する。
ニ 暴対法三条二号の要件は、犯罪経歴保有者が少ない団体を是とし、多い団体を非とする価値観を採用するものであり、憲法一四条に違反する。
ホ 暴対法三条二号は、犯罪経歴保有者となる者として刑の言渡しの効力が消滅した者(恩赦、執行猶予期間経過者等)を含むが、これらの者は法律上は刑の言渡しを受けていない者とみるべきであるから、これらの者を犯罪経歴保有者とするのは憲法一四条に違反する。
(2)イ 暴対法三条二号の要件は、犯罪経歴保有者が少ない団体を是とし、多い団体を非とする価値観を採用するものであり、憲法二一条に違反する。
ロ 暴対法三条二号の「幹部」の概念は極めて不明確であり、漠然性ゆえに無効であり、また、幹部は個々の団体が決定するものであり、法によって、団体の定める幹部とは無関係に幹部を決定し、これについて犯罪経歴保有者比率を判断するというのは、団体の結社の自由に対する干渉であり、これを要件とすることは憲法二一条一項に違反する。
ハ 暴対法三条二号の「政令で定める比率」の基準設定は、一義的明確性を著しく欠くものであるから、憲法二一条一項に違反する。
(3) 以下の点から、暴対法三条二号及びこれに基づく施行令、施行規則は憲法二一条に違反し、法律の委任に基づかず、委任の範囲を超えたものとして、違法無効である。
幹部の概念自体不明確であり、その数の決定や組織編成に関する団体の自治は憲法二一条一項の自由の態様であって、合理的根拠もない基準でし意的に幹部数を決定する施行規則二条は、違憲である。
暴力団とそれ以外の団体の区別という不明確な概念をもって確率論の基礎となる要素を選定できず、「政令で定める比率」の基準も「国民の集団」の概念も不明確であり、無効である。
完全平等社会の前提条件を欠く本件のような場合に、採用できない確率計算方法である二項分布を採用した施行令は無効である。
(二) 被告の主張
(1)イ 法三条二号の要件は、暴力団には犯罪経歴保有者が多数その構成員となっているという特性に着目し、これを要件としたものにすぎず、犯罪経歴保有者を犯罪経歴を有するという理由で差別するものではないから、憲法一四条違反の問題が生ずる余地はない。
また、憲法一四条一項にいう社会的身分とは、人が社会において占める継続的な地位をいうが、ある団体がその構成員の中に一定の比率を超える犯罪経歴保有者を有する団体か否かということは、三条指定を行う公安委員会との関係においてのみ問題となるものであり、そもそも右にいうところの社会的身分には該当しない。
仮に、暴力団を、その構成員の中に一定の比率を超える犯罪経歴保有者を有する団体であるとして、他の団体と区別して三条指定の対象とすることが、差別的取扱いであると解する余地があるとしても、一般的に、暴力団の構成員に暴力的不法行為等に係る犯罪を犯した者が著しく多く含まれているという暴力団の特性に着目し、これを要件として、同要件に該当する暴力団だけを指定することとしたものであるから、右取扱いには合理的な理由があり、憲法一四条に違反するということはできない。
ロ 市民生活の安全と平穏を確保するため、指定暴力団員とされるもの全員について反社会的かつ不当な行為を禁止するとともに、その違反等があった場合は、行政命令により、その違反行為等を防止することとした暴対法の規制は、合理的な理由に基づく規制であり、憲法一四条に違反するものではない。
ハ 原告の主張によっては、犯罪経歴保有者比率を団体の人数により区分することがいかなる理由から関連性及び合理性がないというのか全く不明であり、この点において原告の右(一)(1)ハの主張は、それ自体失当である。なお、犯罪経歴保有者比率の定め方及びその比率が採られた理由については、後記(3)イのとおりであり、暴対法三条二号の要件は、暴力団以外の団体と暴力団を区別する客観的かつ明確な基準となるものである。
ニ 犯罪経歴保有者比率の要件は、暴力団性の判断のために設けられたものであり、この要件によって暴力団の是非の価値判断をするものではないので、原告の右(一)(1)ニの主張は、その前提において失当である。
ホ 犯罪経歴保有者の要件は、暴力団の構成員には一定の犯罪行為を行った者が著しく多いという事実に着目し、刑法等とは異なる見地から右事実を要件とするものであって、憲法一四条違反の問題が生ずる余地はない。
(2)イ 右(1)のニで述べたのと同様の理由により、原告の右(一)(2)イの主張は、その前提において失当である。
ロ 暴対法三条二号の「幹部」の意義については、団体の暴力団性の要件である犯罪経歴保有者比率を判断する対象者の範囲を定めたものである。したがって、原告において定めている幹部又は考えている幹部とは異なる場合があり得るが、この幹部概念と同号の幹部概念とはもともと異なるものであるから、同号の幹部を対象者として犯罪経歴保有者比率を判断することが、原告の集会結社の自由に対する干渉になる余地はない。
ハ 犯罪経歴保有者比率の定め方は、暴力団以外の団体と暴力団を区別する客観的かつ明確な基準であるから、原告の右(一)(2)ハの主張は理由がない。
(3)イ 暴対法三条二号は、暴力団の幹部又は構成員の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率について、政令により、暴力団以外の集団一般におけるその集団の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率を超えることが確実であるものとして、当該政令で定める集団の人数の区分ごとの比率(国民の中から任意に抽出したそれぞれの人数の集団のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率が当該政令で定める比率以上となる確率が一〇万分の一以下となるものに限る・以下、比較基準比率という。)を定めるものとしている。ここでいう「国民の中から任意に抽出した集団」とは、特定の団体ないし具体的な人の集団を意味するものではなく、正に国民の中から任意に抽出した人の集まりを意味する。
右規定を受けて、施行令一条は比較基準比率を定めているのであるが、その定め方の概略は、次のとおりである。
まず、国民の中から任意に一人を抽出した場合におけるその人が犯罪経歴保有者である確率を求める。この確率は、国民の中に占める犯罪経歴保有者の比率と同じであるから、同比率は、人口推計月報(総務庁統計局作成)により把握した国民の人数及び司法統計年報(最高裁判所事務総局総務局作成)及び検察統計年報(法務省法務大臣官房司法法制調査部作成)により把握した犯罪経歴保有者の人数に基づき算出される。
次に、右の確率を前提として、国民の中から任意に一定の人数の集団を抽出した場合に、その集団の中に犯罪経歴保有者が含まれる確率を計算する。この計算は、右確率を算出するのに適した計算方法である二項分布の確率計算を用いている。右確率計算において、国民の中から、三人、四人というように順次異なる人数ごとに任意に人を抽出した場合、それぞれの人数の集団ごとに、その中に犯罪経歴保有者が順に一人以上含まれる確率から当該集団の人数まで含まれる確率をそれぞれ計算し、その確率が一〇万分の一以下となる犯罪経歴保有者数を算出する。
右犯罪経歴保有者数は、国民の中から任意に抽出した人数の集団において、当該集団が右犯罪経歴保有者数以上の犯罪経歴保有者を含む確率が一〇万分の一以下となる人数である。そして、政令で定めることが求められている比率(比較基準比率)は、国民の中から任意に抽出した集団の中の犯罪経歴保有者の比率が政令で定める比率以上となる確率が一〇万分の一以下となるものであるところ、右の方法で算出された各人数の集団ごとの確率一〇万分の一以下となる犯罪経歴保有者数をそれぞれの集団の人数で除すことにより、その集団の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率がそれ以上となる確率が一〇万分の一以下となる比率が得られることになる。
ロ このように、施行令一条で定める比較基準比率は定められており、暴対法三条二号の委任に基づき、かつ、委任の範囲内で定められたもので、適法である。
4 暴対法三条三号の違憲性
(一) 原告の主張
暴対法三条三号の「運営を支配する地位にある者」の概念は、その内容が不明確であり、漠然性のゆえに無効であるから、これを要件とすることは憲法二一条一項に違反する。
(二) 被告の主張
右「運営を支配する地位にある者」の概念内容は、その法文から明らかなとおり、団体を統括している者を意味し、不明確なものではないから、右主張は、その前提において失当である。
5 聴聞規則五条の違憲性
(一) 原告の主張
聴聞規則五条に定める忌避事由は、暴対法五条の聴聞の場合は適用の余地がなく、二三条の聴聞の場合にも一部適用の不能なものであって、審理の公正を図る必要から設けられた聴聞における忌避規定が忌避事由を制限するのは不平等かつ不適正となるから、憲法一四条、一三条、三一条に違反する。
(二) 被告の主張
聴聞規則五条は、主宰者が暴対法九条又は一六条の規定に違反する行為の相手方と一定の関係を有する場合に、これを忌避事由とするものであり、二三条に係る聴聞における忌避事由を定めたものである。したがって、聴聞規則五条が暴対法五条の指定に係る聴聞の場合に適用がないのは、その規定上当然のことである。暴対法五条に係る聴聞における聴聞主宰者の公正を保障する規定として、聴聞規則四条に除斥事由が定められており、聴聞手続における主宰者の公正は十分担保されている。
三 本件指定処分の手続の違法性
1 聴聞通知書の送達の違法性
(一) 原告の主張
被告が原告に対し本件指定処分に係る聴聞通知書(以下、本件聴聞通知書という。)を差置送達の方法で送達したことは、衆参両議院の各地方行政委員会において付された各附帯決議二項、聴聞規則四一条二項、施行規則四一条二項二号に違反する。
(二) 被告の主張
(1) 被告は、平成四年四月二四日、京都府警察本部職員をして、原告の本部事務所において、原告代表者に対し、本件聴聞通知書を交付しようとしたところ、原告代表者は、その内容を理解した上で、警察庁が原告を含む七団体を指定暴力団として適用するとの方針を発表したことは不公正な措置であり、憲法上も許されないなどと書いた声明書を差し出したうえ、同旨を口頭で述べて受領を拒否したため、聴聞規則四一条二項で準用する施行規則四一条二項二号に基づき、本件聴聞通知書をその場に差し置いて送達(以下、本件送達という。)を行った。
(2) 原告が本件送達を違法とする根拠として挙げる理由のうち、右附帯決議二項は聴聞通知書の送達に関する手続規定ではなく、これが本件送達の違法事由になり得ないことは明らかである。
本件聴聞通知書の送達については、聴聞規則四一条二項で準用する施行規則四一条二項で定める差置送達の要件が充足されているので、本件送達には何ら手続違背はない。
2 聴聞通知書の理由付記の違法性
(一) 原告の主張
本件聴聞通知書には、「指定しようとする理由」が抽象的にしか記載されていないから、暴対法五条二項に違反し、また、原告が暴力団であるとの事実について全く理由記載がないから、暴対法三条本文に違反する。
(二) 被告の主張
本件聴聞通知書には、暴対法五条二項所定の「指定をしようとする理由」として別紙二のとおりの理由が記載されている。
聴聞通知書に「指定をしようとする理由」としてどの程度の事実を記載すべきかは、結局のところ、聴聞の性質と右理由を記載することとした暴対法五条二項及び聴聞規則一四条一項の趣旨に従って判断することになるところ、聴聞通知書を聴聞に先立って送達するのは、単に指定対象者に反論の機会を保障するだけでなく、三条指定の適正を図る趣旨で設けられた聴聞において、暴対法三条各号の要件該当性の有無について指定対象者に意見及び証拠提出の準備をさせ、実質的にも攻撃防御を行うことができるようにする趣旨であると解されることからすると、本件聴聞通知書の理由付記は、暴対法の趣旨に即して十分な記載がされたものといえる。
3 聴聞審理における指定理由の不告知等の違法性
(一) 原告の主張
本件指定処分に係る聴聞(以下、本件聴聞という。)において、被告は、本件送達と本件聴聞通知書の理由付記の違法を治癒させることなく、また、原告の補佐人からの忌避申立てを却下して、本件聴聞の審理を開始した上、その冒頭において、本件聴聞通知書に記載された「指定をしようとする理由」と同内容の理由を告知しただけで、聴聞規則一九条一項が求める適法な理由告知をしなかった。
(二) 被告の主張
本件送達及び本件聴聞通知書の「指定をしようとする理由」の記載に何ら違法な点がないことは、右1、2の各(二)のとおりである。
被告は、本件聴聞の冒頭において、聴聞規則一九条一項の規定に基づき、指定をしようとする理由として本件聴聞通知書記載のものと同内容の理由を告知したが、聴聞の冒頭における理由告知の程度としては、右2の(二)において聴聞通知書の理由記載の程度について述べたのと同様の理由から、右内容のもので十分である。右の理由告知に対して、原告代表者及び補佐人は、約二時間三〇分にわたり意見を述べ、合計一八点の証拠を提出するなど、実質的な攻撃防御を行った。
忌避の申立てに対する却下については、原告の補佐人が申し述べた忌避理由が、聴聞規則の規定はずさんであり、憲法一四条に違反する聴聞規則に基づく審理は、それ自体が審理の公正を妨げるおそれがあるので、聴聞規則五条本文を類推適用するとともに、聴聞において主宰者である公安委員を参考人として証言を求める予定であって、聴聞規則四条四号により将来の除斥事由が発生することになるので、同号及び聴聞規則五条を類推適用し、一般条項に基づき公安委員全員の忌避を申し立てる、というものであって、聴聞規則五条所定の忌避事由に該当しないことが明らかであったから、聴聞主宰者である被告は、聴聞規則七条ただし書の規定に基づき、これを却下したものであり、右措置について何ら手続違背はない。
4 聴聞審理において違憲論の主張を制限した違法性
(一) 原告の主張
聴聞審理における原告の意見陳述において、暴対法の違憲性を陳述しようとしたことに対して被告がこれを制限したのは、憲法九九条の憲法尊重擁護義務から導き出される厳格かつ適正な法令解釈・運用義務及び衆参両議院の各地方行政委員会において付された各附帯決議四項に違反した違法がある。
(二) 被告の主張
右附帯決議を根拠とする違法主張が失当であることは、右1の(二)(2)記載の送達の場合と同様である。
被告は、本件聴聞において、原告の補佐人がその意見陳述の冒頭において暴対法が憲法に違反して無効であることにつき述べようとしたため、聴聞規則二二条三項の規定に基づき、その発言を制限したが、行政機関たる被告は、そもそも法律の憲法適合性を審査する権限を有しておらず、暴対法が憲法に違反するかどうかを判断する立場にないため、暴対法自体の違憲論を聴取することが無意味であることから、右補佐人の陳述は聴聞規則二二条三項の「聴聞において発言しようとするものが事案の範囲を超えて発言するとき」に該当するものであるとして、右発言を制限したのであり、したがって、右発言の制限に何ら手続違背はない。
5 聴聞の終結処分の違法性
(一) 原告の主張
本件聴聞において、被告は、最後まで指定をしようとする理由を告知せず、かつ、暴対法の違憲論の陳述を制限したまま聴聞を終結したものであり、右措置は聴聞規則に定める一連の聴聞手続規定に違反する。
(二) 被告の主張
被告は、証拠調べ終了後、指定の可否の決定をするについて審理が熟したものと認め、原告に対し、他に意見がないことを確認した上で聴聞を終結したものであり、右措置に手続違背はない。
6 指定通知書の理由付記の不備の違法性
(一) 原告の主張
本件指定処分の通知書(以下、本件指定通知書という。)には、暴対法七条三項、施行規則六条五号に定める「指定をした理由」の記載がない。
(二) 被告の主張
本件指定通知書には、暴対法七条三項、施行規則六条五号所定の「指定をした理由」として別紙三のとおりの理由が記載されている。
右各規定において指定通知書に指定をした理由の記載を要求しているのは、行政庁の判断の慎重性、合理性を担保するとともに、処分の相手方に理由を知らせ、事後の争訟提起に便宜を与える趣旨と解されるが、どの程度の記載をすべきかは、処分の性質と理由を記載することとしている法令の趣旨に照らして判断すべきものである。三条指定という行政処分の性格が、団体の性格を判断するものであることからすると、指定した理由としては、本件指定通知書に記載した三条各号に該当する事実の記載で十分である。
四 本件指定処分の構成要件該当性
1 被告の主張
(一) 原告の組織構成、活動実態等
(1) 沿革
原告は、四代目会津小鉄の名称を使用しているが、明治時代に存在した博徒の集団会津小鉄とは別の団体である。原告の団体としての起源は、昭和二四年京都の暴力団組織を糾合した中島会にさかのぼるものであり、この中島会が代表者の変更等に伴い、その名称を、順に中島連合会、三代目会津小鉄会(会長・乙野一郎)、四代目会津小鉄会と変更してきたのが原告の沿革である。
(2) 組織構成
原告は、会長甲野太郎、総裁乙野一郎(三代目会長)、会長と直接擬制血縁関係を結んでいる者(以下、若中等という。)、若中等の配下にあって当該若中等と擬制血縁関係を結んでいる者、更にその者と擬制血縁関係を結んでいる者により構成されており、会長を頂点とする擬制血縁関係の連鎖により組織が形成されている。
このうち、会長、総裁、若中等、準若中(将来の若中候補者、傘下組織の構成員でもある。)が本部の構成員ないし直系の会員とされており、その他の者は、若中等が長となる傘下組織の構成員又はさらにその傘下の準若中等が長となる組織の構成員(傍系の会員と呼ばれる。)となっている。右傘下組織は、原告の名称を冠してそれぞれの名称を名乗り、原告の代紋を使用している。また、原告は、その規約として「四代目会津小鉄内規」を定めているが、右内規は傘下組織の構成員に対しても適用されている。これらの点に照らせば、右傘下組織は、実質的には原告の内部組織というべきである。
(3) 組織運営の方法
イ 意思決定・伝達の方法
四代目会津小鉄内規には、原告の組織運営についての詳細な規定はないが、原告においては、組員人事、他団体との関係事務の処理、警察に対する対策等組織運営に関する最終的な意思決定は会長が行うこととされている。
会長は、その運営方針の決定に際して、五役会(若頭、舎弟頭、本部長、組織委員長、風紀委員長で構成される。)、執行部(若頭、舎弟頭、本部長、組織委員長、風紀委員長、舎弟頭補佐兼事務局長、舎弟頭補佐、舎弟、副本部長、小頭、若頭補佐二人で構成される。)等の意見を参考にすることもある。なお、これらの機関の構成は、本件指定処分後に変更されている。
このようにして決定された原告の運営方針は、準若中以上の構成員を招集して開催される総会において指示され、さらに、傘下組織の幹部は、総会での指示事項等について、自己の配下組員に対し指示を行っている。なお、傘下組織に対しては、ファクシミリ等により指示される場合もある。このように、原告の運営方針は、原告組織の末端に至る構成員にまで伝達されている。
ロ 構成員の加入脱退
構成員の加入を認めるかどうかは、傘下組織の長に裁量が認められている。新規加入構成員は、傘下組織の長等と擬制血縁関係を結び、その傘下組織に属することにより、原告の構成員となる。
傘下組織の構成員の脱退、排除は、執行部の承認を得て、傘下組織の長が破門(団体から追放する処分であるが、後に復帰の可能性を残すもの)、絶縁(当該団体から永久追放する処分)等の処分を科することによりされる。その際には、原告の名称を冠した肩書を入れた傘下組織の長等の名義により、関係暴力団へ破門状、絶縁状等が発送されている。
ハ 賞罰、義務
原告においては、傘下組織構成員のうち組織に対して功労の大きい者等を準若中として取り立て、また、原告が関与した対立抗争事件に参加した傘下組織の功労者(対立抗争に参加し、これにより服役した者)に対して、出所後に放免祝を行うこととしている。
一方、構成員は、地位に応じて一定の会費を納入し、割当てにより本部又は傘下組織の事務所当番に従事し、対立抗争の発生に際しては、上位者からの命令に服してこれに参加するなど、本部(会長)、傘下組織の長等の指示、命令を遵守する義務を負う。
(4) 活動実態
原告は、他の暴力団との間で、縄張り争い等を原因として対立抗争を繰り返しているが、対立抗争が発生した場合には複数の傘下組織構成員が抗争に関与し、村立抗争の終結のための話合いは原告の最高幹部が行うなど、組織的に一体として対応している。
また、原告は、他の暴力団との関係の在り方や構成員の遵守事項等に関する原告の方針を、若中等を通じて、全構成員に指示、命令することにより、末端まで一個の組織体としての統制を図っている。例えば、原告は、法に対する対策として、平成三年三月、本部事務所の外部に掲げていた代紋、事務所内部にあった名札等を取りはずすとともに、傘下組織に対してもそれぞれの事務所に掲示していた代紋、看板、名札等の撤去を指示し、傘下組織がこれに応じて行動するなど、本部及び傘下組織全体が一体となって組織的に対応している。
(二) 暴対法三条一号要件該当性原告については、以下のような事実が認められるので、原告が暴対法三条一号の要件を満たす団体であることは明らかである。
(1) 暴力団としての威力の存在
原告は、施行規則三条一項の基準日である平成四年四月二〇日現在で、一五九八人の構成員を擁し、二府一道一県に勢力を有する広域暴力団である。
原告の構成員の多数が、殺人、傷害、恐喝等の暴力的不法行為等を行っている。すなわち、右基準日現在で、原告の幹部(施行規則二条に該当する者(その詳細は後記(三)の(2)のとおり。)をいう。以下同じ。)一六九名のうちの六四名が、暴対法別表に掲げる暴力的不法行為等に係る犯罪経歴保有者である。また、警察に検挙された原告の構成員は、平成元年から平成四年四月までに、傷害、恐喝等の刑法犯が約七〇〇人、覚せい剤取締法違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反等の特別法犯が約六〇〇人となっている。
原告は、最近においても他の暴力団と対立抗争を起こしているが、これらの対立抗争においては、構成員がけん銃を相手の暴力団員に向けて発砲して殺傷したり、相手事務所に向けてけん銃を発砲するなどの犯罪行為を敢行している。そして、昭和六二年以降の五年間に原告の構成員から押収されたけん銃は、一六〇丁に上っている。
原告内部においては、暴力的管理が行われている。すなわち、原告の規律、指示等に違反した構成員に対しては、左手小指等の切断、集団リンチが加えられるなどの暴力行為が行われ、これによって規律等の維持が図られている。
原告に関する以上のような事実は、新聞、テレビによる報道等を通じて、他の暴力団員ばかりでなく、一般市民にも広く知られており、原告は暴力的性格を有する団体であるという認識及び印象が社会的に形成されていて、暴力団としての威力が存在している。
また、原告を始めとする暴力団には、入れ墨、断指等の特異な風習があり、その構成員の服装、言動、使用車両等にも異種独特なものがあることが一般的に広く知られており、市民により暴力団員であると容易に識別できる者が多い。
(2) 原告の構成員が原告の威力を利用して資金獲得行為を行っている実態
イ 原告の構成員は、原告の暴力団としての威力を利用して資金獲得行為を行っている。
この威力の利用の方法としては、市民に対しては、団体名を告げる、団体の名称・代紋を印刷した名刺を交付する、原告の配下組員が交渉等の相手に対して暴力・脅迫を加えるおそれがある旨告知するなどして相手を心理的に威圧し、又は実際に暴行を加え、監禁することなどがあり、このような方法により相手を畏怖、困惑等させている。また、他の暴力団の構成員に対しては、資金獲得活動が競合した場合等に、相手に団体名を告げてこれを断念させたり、相手がこれに応じなかった場合には、けん銃を発砲することなどがあり、これらが発端となって対立抗争事件を惹起している。
このような威力を利用した資金獲得行為(以下、威力利用資金獲得行為ともいう。)の具体的事例としては、風俗営業者等からのみかじめ料徴収、債権取立て、交通事故等に絡む示談介入、地上げ、風俗営業者等に対する物品の販売・リース、賭博・ノミ行為、覚せい剤の密売、寄付金・賛助金の要求等多岐にわたっている。
ロ 威力利用資金獲得行為自体が恐喝等の犯罪行為に当たり、又はこれらの行為の過程で傷害、監禁等の犯罪行為を犯したため、警察に検挙された原告の構成員の数は、過去五年間に約四〇〇人に上っているが、この中には、末端の構成員だけでなく、多数の幹部構成員も含まれている。右のような犯罪行為の被害者が自ら進んで警察に被害申告、被害相談等を行うことは少なく、むしろ被害申告をしたことによるお礼参りを恐れるなどの理由から、被害者が被害申告等を行わないでいる事例が多く、警察で検挙し得た事件は実際の被害事案のごく一部であると推測される。また、警察に寄せられた民事介入暴力行為に関する被害相談及び最近行った被害実態調査結果により把握されている原告の構成員による威力利用資金獲得行為の件数は、検挙の件数を相当上回っている。このような威力利用資金獲得行為は、犯罪行為にならないものもあるので、警察が把握していないものが相当数あるものと考えられる。
(3) 原告がその威力を構成員に利用させ、又は構成員が利用することを容認している実態
イ 原告による威力利用の容認に係る行為
a 原告は、ヒョウタンの形の代紋を使用しているが、原告が京阪神では有名な暴力団であり、市民にもその代紋が知られていることから、構成員がその代紋を示すことにより、原告が有する暴力団としての威力を示すことができる。原告の構成員は、その所属する傘下組織を通じて代紋を型取ったバッジの交付を受けており、また、原告の名称又は代紋を印刷した名刺を作成しているが、資金獲得行為の交渉等に際して、このバッジや名刺を相手に示している。その他にも、原告の構成員は、原告の構成員であることを告知したり、原告の事務所を使用して資金獲得行為のための交渉等を行っている。このような行為のうち犯罪に当たるものがあり、多数の構成員が検挙されているにもかかわらず、原告はその構成員に対し、右のような行為を行うことを禁止していない。
b 過去において原告が起こした対立抗争のうちの大半は、その構成員の縄張争いや資金源をめぐるトラブル等が原因となっているが、原告においては、このような対立抗争において、原告の最高幹部が関与したり、複数の傘下組織の構成員が関与するなど、組織的に対応している。また、このような対立抗争に参加した構成員がそのことによって有罪判決を受け、服役した場合、原告は、その者の服役の間、その家族の面倒を見たり、出所後に放免祝を行ったりしている。
このように、原告は、構成員の資金獲得行為に関して他の暴力団と対立抗争が発生した場合、構成員がこれに参加することを賞揚し又は援助する態度を採っているのであるが、これにより多数の構成員が対立抗争に参加しやすくなり、これを敢行することにより他の暴力団に威力を示し、構成員の資金獲得行為に対する他の暴力団の介入を排除して、構成員の資金獲得行為を容易にしている。
ロ 威力利用資金獲得行為を行った構成員に対する処置
四代目会津小鉄内規においては、構成員が威力利用資金獲得行為を行うことを禁止していない。原告は、構成員が犯罪行為に当たる威力利用資金獲得行為を行ったことにより有罪判決を受けた場合であっても、原告の威力を利用したことを理由として破門等の処分を行っておらず、このような者が現在も原告の構成員として活動している。
(4) まとめ
以上のとおり、原告は、暴力団としての威力を有しており、原告の構成員が右威力を利用して資金獲得行為を行うことを容認していると認められ、この事実は、暴対法三条一号の要件の「当該暴力団の暴力団員が当該暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得ることができるようにするため、当該暴力団の威力をその暴力団員に利用させ、又は当該暴力団の威力をその暴力団員が利用することを容認することを実質上の目的とするものと認められる」場合に該当するものである。
(三) 暴対法三条二号要件該当性
(1) 原告の構成員の数
原告に係る施行規則三条一項の基準日である平成四年四月二〇日時点における原告の構成員の総数は、一五九八人である。
(2) 原告の幹部の範囲及びその数
平成四年四月二〇日時点における原告の施行規則二条に該当する幹部は、以下のとおりである。
原告の会長である甲野太郎は、原告を代表する者であり、施行規則二条一号に規定する暴力団を代表する地位にある者に該当する。
原告の執行部を構成し又は顧問的立場にある総裁、若頭、舎弟頭、本部長、組織委員長、風紀委員長、舎弟頭補佐兼事務局長(以上各一人)、舎弟頭補佐(四人)、舎弟、副本部長(以上各一人)、小頭(五人)及び若頭補佐のうち二人(以上合計二〇人)は、執行部又は顧問的立場において組織運営の決定に関与し、また、本部等の名において傘下組織に対する指示を行っている者であり、施行規則二条二号に規定する原告の運営を支配する地位にある者に該当する。
原告の構成員のうち、準若中は六九人であるが、これより上位の地位の階層にある者(会長、上記の運営支配者、執行部を構成しない若頭補佐一〇人、若中六九人)を加えると、その合計は一六九人であり、右人数は全構成員の五分の一を超えないが、これより下位の地位の階層にある者(若中等の擬制血縁関係上の弟分又は子分になっている者約一三〇〇人)を加えると、全構成員の五分の一を超えることになる。したがって、施行規則二条三号に該当する者は、若頭補佐のうち執行部を構成する者以外の者、若中及び準若中であり、その人数は一四八人である。なお、若頭補佐、若中、準若中は、その配下に傘下組織を有する場合、その構成員に対し、指示命令することができる地位にある者である。
したがって、施行規則二条に規定する幹部に該当する者の合計は、原告の準若中以上の構成員であり、その人数は一六九人である。
(3) 原告の幹部のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率
平成四年四月二〇日時点において、右(2)の原告の幹部のうち、暴対法三条二号に規定する犯罪経歴保有者は六四人であり、右人数の占める割合は37.87パーセント(小数点以下第三位四捨五入)である。
(4) まとめ
以上のとおり、原告の幹部構成員一六九名のうち犯罪経歴保有者の人数六四名の占める割合は37.87パーセントであり、これは施行令一条に定める集団の人数が一六〇人から一六九人の範囲にある場合における犯罪経歴保有者比率6.26パーセントを超えるものであるから、原告は暴対法三条二号の要件を充足する団体である。
(四) 暴対法三条三号要件該当性
(1) 原告は階層的に組織構成された団体であることについて
原告の組織構成は、前記(一)の(2)記載のとおりであり、平成四年四月二〇日当時、原告の幹部は、会長、総裁、若頭、舎弟頭、本部長、組織委員長、風紀委員長、舎弟頭補佐兼事務局長(以上各一人)、舎弟頭補佐四人、舎弟一人、副本部長一人、小頭五人、若頭補佐一二人、若中六九人、準若中六九人であり、このうち若頭以下風紀委員長までで五役会と称する幹部組織、若頭以下小頭まで及び若頭補佐のうちの二人で執行部と称する幹部組織、若頭補佐以上の者で幹部会と称する幹部組織を構成している。
若頭補佐及び若中は、会長と擬制血縁関係上の子分になっており、それぞれ傘下組織を有する場合は、その長として、配下の構成員に対して指示命令することができる地位にある。
準若中は、それ以上の地位にある者と共に本部の構成メンバーとなり、また、傘下組織の長である場合は、その構成員に対して指示命令することができる地位にある。
その他の構成員は、それぞれ傘下組織の構成員となっている。
このように、原告は、会長を頂点として、階層的に構成されている暴力団である。
(2) 原告はその代表者等による統制の下に組織が構成されている団体であることについて
原告の組織運営の方法は、前記(一)の(3)記載のとおりであり、原告は、その末端の傘下組織の構成員に至るまで、会長又は運営を支配する地位にある者による厳格な統制が及んでいる。
(3) まとめ
以上のとおり、原告は、その代表者等の統制の下に階層的に構成された団体であるから、暴対法三条三号の要件に該当する。
2 原告の反論
(一) 暴対法二条二号非該当
原告は、その構成員が行う暴力的不法行為等を助長、容認したことはなく、暴対法二条二号の暴力団に該当しない。
(二) 暴対法三条一号要件の欠缺 (1) 原告は、その創始以来の任侠団体であって、日本古来の伝統的精神である義理と人情を重んじ、強きをくじき、弱きを助ける仁侠の道を実践することを目的とした団体であり、また、原告の規約として定める四代目会津小鉄内規によっても、原告が暴対法三条一号の要件に定める目的を有する団体でないことが明らかである。
(2) 原告には暴力団の威力はなく、またその構成員が原告の威力を利用することを容認しておらず、原告の構成員には原告の威力を利用して資金を獲得している者はいないので、暴対法三条一号の要件を満たさない。
(3) 原告の構成員中の犯罪経歴保有者が行った暴力的不法行為等は、原告の助長により遂行されたものではないのであるから、これらの者が行った犯罪行為によって、原告が、暴対法三条一号に定める暴力団の実質上の目的を有するものと決めつけるのは、原告と関連性を有しない構成員の個人的行為により団体の存在目的を判断することとなって不当なものである。
(三) 暴対法三条二号要件の欠缺
(1) 施行令一条には、構成員全員における犯罪経歴保有者比率のみを定めており、幹部構成員におけるそれを定めていない。
(2) 被告には、本件指定処分に際し、原告の暴対法三条二号要件該当性を認めるに足りる資料が存在しなかった。
(3) 施行規則三条二項一号には「最近」というあいまいな概念が用いられており、また、同号の要求する資料には何の限定もないが、これは、犯罪経歴保有者比率の算定の基準日をし意的に選定し得ることになり、また、根拠や正確性の乏しい主観的文書も意図的に使用することを許容するもので、暴対法三条に違反する。
(4) 原告は擬制血縁関係により構成される団体であり、代表者の子供又は弟に当たる者が本家の構成員であって、その子供がさちに子供をもって一家を構えると本家からは分離独立した分家になり、分家の構成員は本家の構成員に含まれず、原告はこの本家のみである。
したがって、施行規則二条にいう幹部は、会長のみである。
(5) 犯罪経歴保有者比率の算定の基準日は、暴対法八条二項の解釈上、指定公示日とすべきであり、それより以前の日をもって右の基準日としたことは違法である。
(四) 暴対法三条三号要件の欠缺
(1) 被告には、本件指定処分に際し、原告の暴対法三条三号要件該当性を認めるに足りる資料が存在しなかった。
(2) 暴対法三条三号要件は社団性を前提とするものであるが、原告は社団ではない。
(3) 原告は、①その本部と傘下組織は別個の団体であるから、暴対法に基づき原告及びその傘下組織を一括して指定するには、暴対法三条によるのではなく、四条によるべきところ、三条による本件指定処分は、暴対法の適用を誤ったものである、②警察庁も、原告とその傘下組織とは別の暴力団であると認識し、暴対法四条による指定を予定していた。
3 被告の再反論(以下、(二)ないし(四)において、(1)、(2)等の番号の付された被告の主張は、前記2の(二)ないし(四)における、これと同番号の原告の主張と対応する関係にある。)
(一) 暴対法二条二号要件の該当性
前記のとおり、原告の多数の構成員が暴力的不法行為等を敢行していることは明らかであり、また、原告は、他の暴力団との対立抗争が発生した場合、構成員がこれに参加することを賞揚し、又は援助しているのであって、原告の構成員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがあることは明らかである。
したがって、原告は、暴対法二条二号の暴力団に該当する。
(二) 暴対法三条一号要件該当性
(1) 暴対法三条一号要件が定める目的の存否は、名目上の目的にかかわらず、実質的な目的として、その構成員が原告の威力を利用することを原告が容認していると認められるか否かであり、仮に、原告が創始以来任侠団体を標榜し、その活動の中にこれに沿う活動実態があるとしても、前記のとおりの実態があり、この実態が原告の威力利用容認を肯認させるものである以上、右主張だけでは、暴対法三条一号要件の非該当性の理由となるものではない。
(2) 原告には前記のとおりの実態があることにかんがみれば、原告に暴力団としての威力があること、原告の多数の構成員が原告の威力を利用して資金獲得行為を行っていることは明らかであって、原告は右構成員の行為を容認していると認められるのであるから、原告の主張は理由がない。
(3) 被告が、原告について、暴対法三条一号要件を充足すると認定したのは、前記のとおりの実態によるものであり、単に原告に暴対法三条二号所定の犯罪経歴保有者が存在することだけから、暴対法三条一号要件の充足性を認定したものではない。
(三) 暴対法三条二号要件該当性
(1) 暴対法三条二号は、指定対象暴力団の幹部構成員のうちに占める犯罪経歴保有者の比率又は当該暴力団の全構成員に係る同比率が、暴力団以外の集団一般におけるその集団に係る同比率を超えることが確実であるといえるだけの比率、すなわち、国民の中から任意に抽出した集団に係る犯罪経歴保有者の比率が政令で定める比率以上となる確率が一〇万分の一以下となる比率を政令で定めることとしている。そして、同号を受けて施行令一条が定める各人数ごとの比率は、指定対象暴力団の幹部構成員のみからなる集団に対しても、当該暴力団の全構成員からなる集団に対しても、適用されるものとして定められた比率である。したがって、右各集団ごとに定める比率が異ならなければならないということを前提として、施行令一条の違法を主張する原告の右主張は、右に述べた同条に定める比率の意味を正しく理解しない失当なものである。
(2) 原告の構成員の把握は、京都府警察等が日常の警察活動を通じて収集した資料に基づいて把握したものであり、右資料は施行規則三条二項一号所定の資料に該当するものである。また、原告の幹部の犯罪経歴については、暴対法二五条四項に基づいて行った検察庁における前科資料の調査結果等に基づき算定したものであり、右調査の報告書等は施行規則三条二項二号所定の公文書に該当するものである。
(3) 原告の主張は、右指摘の点が暴対法三条のどこに違反するというのか明確ではなく、主張自体失当である。
(4) 原告は擬制血縁関係を組織の構成原理としており、この擬制血縁関係が連鎖することにより一つの団体を構成しているのであるから、被告は、傘下組織を含めてその全体を一つの団体として本件指定処分を行ったものであって、本部(原告のいう本家)に対してのみ処分を行ったものではない。
(5) 犯罪経歴保有者比率の算定の基準となる日は、施行規則三条一項において「暴対法第三条第二号の規定による比率の算定の基準日は、暴対法第五条第二項の規定による公示をする日前三十日以内のいずれかの日でなければならない。」と規定されている。同項の趣旨は、三条指定については聴聞等の事前手続を経ることを要するとされていることから、公安委員会の暴対法三条各号の要件該当性の判断時期と三条指定の時期に時間差が生じることとなるが、暴力団の構成員の人数は日々変動する可能性があるため、聴聞以前の最新の日にその人数を確定させて、暴対法三条二号要件該当性の判断を行うこととしたものであるから、同項は合理性のある規定である。本件指定処分における基準日は平成四年四月二〇日と定められたが、右基準日は、暴対法五条二項の公示日である同月二七日から前三〇日以内の日であるから、施行規則三条一項の規定に違反するところはない。
(四) 暴対法三条三号要件該当性
(1) 原告の右主張は全く根拠を欠くものである上、少なくとも暴対法三条三号要件については、右主張の点は立証上の問題であって、本件指定処分の違法事由にはなり得ないから、右主張は失当である。
(2) 暴力団の存在自体は法制定以前から社会的事実として存在しており、暴対法はこのような社団性を必ずしも備えていない暴力団の構成員による暴力的要求行為等を規制するために制定されたものであるから、三条指定の対象となり得る団体の社団性の有無は問題となる余地はない。
(3) 一般の暴力団組織をみると、広域暴力団に限らず、その長と構成員との間に擬制血縁関係がみられ、更にその構成員が長となって傘下組織を形成するという形で擬制血縁関係が連鎖することによって、重層的な組織を形成している。この擬制血縁関係の連鎖による重層的組織が、一体性を有せず、各組が連合的な集まりにすぎないときは、暴対法三条による指定をすることはできないのであるが、その組織全体について一体性があり、一個の団体と認められる場合には、その全体について暴対法三条各号の要件の充足性の有無が判断され、これが充足する場合には同条により指定することとなり、暴対法四条による指定の対象とはならないのである。
原告についても、前記のとおり、その傘下組織を含めて全体が一体性のある団体と認められ、かつ、暴対法三条各号の要件を充足する団体であったことから、被告は原告を暴対法三条により指定したのであり、本件指定処分に何ら暴対法の適用の誤りはない。
警察庁が、暴対法制定当時、原告について暴対法四条による指定を予定していたことはない。
第四 事実認定
前記争いのない事実、後掲各証拠(各枝番及び孫番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
一 暴対法の立法の背景
1 暴力団の寡占化
昭和五六年末における全暴力団の構成員及び準構成員(暴力団の構成員ではないが、暴力団と関係を持ちながら、その組織の威力を背景として暴力的不法行為等を行う者、又は暴力団に資金や武器を供給するなどして、その組織の維持運営に協力若しくは関与する者をいう。)の数は約一〇万三〇〇〇人であり、このうち、主要な広域暴力団である山口組、稲川会及び住吉連合会(現住吉会)の三団体の構成員等の数は合計約二万四〇〇〇人であった。
しかるところ、近年、右三団体を始め広域暴力団の勢力の拡大が著しく、これらの団体による暴力団の寡占化が急速に進行し、平成二年末には、全暴力団の構成員等の数は約八万八〇〇〇人と減少したにもかかわらず、右三団体の構成員等の数は約四万三〇〇〇人と大幅に増加し、全暴力団の構成員等の数の約半数を占めるに至り、右三団体に原告を含むその余の広域暴力団を含めた構成員等の数は約七万三〇〇〇人であり、全暴力団の構成員等の数の八〇パーセントを超えるという高い数値を示している。広域暴力団の勢力の拡大は、主に、地方の中小の暴力団を系列下に収め、又はその構成員を吸収することによって行われたのであるが、地方の中小の暴力団にとっては、これら広域暴力団の傘下に入らなければ容易に資金を獲得できないなどの状態に陥ることになり、広域暴力団にとっては、中小の暴力団をその傘下に入れて勢力を拡大し組織の威力を増大させて更に資金獲得活動等を活発化させていくことができるという点において、双方の利害が一致し、広域暴力団の拡大、寡占化が一層進行していく状況にある。
広域暴力団の勢力の拡大、寡占化は、その暴力団の威力を一層高め、また一般市民にもその名称及び活動実態等が知られることにより、その構成員が暴力団の威嚇力を背景にこれを利用し、一般市民の日常生活又は経済取引において、民事上の権利者や一方当事者、関係者の形を採って介入、関与するいわゆる民事介入暴力を行うこと(以下、民事介入暴力行為という。)が容易になり、これによって市民社会に脅威を与えるとともに、広域暴力団の勢力の拡大の過程において、他の暴力団との間に対立抗争を頻発させるなど市民社会に多大の迷惑と不安を与えてきた。また、広域暴力団の拡大、寡占化の結果、これらの団体間において対立抗争が発生した場合には、その対立抗争は全国的かつ長期間にわたるだけでなく、続発する危険性を伴う状況になっている。
(乙一ないし三、弁論の全趣旨)
2 暴力団員による民事介入暴力行為の増加
暴力団員による民事介入暴力行為に関して都道府県警察が受理した相談件数は、昭和五六年には九六六五件であったものが、平成二年においては、二万二八四四件に増加した。
これらの民事介入暴力行為が犯罪に当たる場合であれば、これを検挙することにより被害の拡大を防止することが可能であるが、暴力団員の民事介入暴力行為の手口が巧妙になっていることから、検挙の対象とならない事例が多く、一般市民がこれらによる被害を甘受せざるを得ない状況となっていた。
例えば、前記のとおり、平成二年において、民事介入暴力行為に関して二万二八四四件の相談を受けていたが、犯罪として検挙し得たものは三〇五二件にすぎなかった。
暴力団員から民事介入暴力行為を受けた被害者は、直接暴力団員から大声で怒鳴られたり、にらみつけられたりすることで恐怖を感じるのみならず、暴力団員の要求をいったん断っても、複数の暴力団員が自宅や職場に来り、暴力団事務所などに呼び出されたりして、場所を問わず執拗に要求されたり、場合によっては暴行を受けたりした。飲食店経営者が被害者となった事例では、暴力団員が店舗に長時間居座る、他の客に入れ墨を見せつけるなどの嫌がらせをしたり、店舗の什器を損壊したりしている。民事介入暴力行為の実情がこのようなものであることから、暴力団員から要求を受けた市民は、将来的に暴行・脅迫を受けること、家族に累が及ぶこと、要求が際限なく続くこと等の不安を感じており、極端な場合はノイローゼになることもあるなど、その精神的な苦痛の大きさには計り知れないものがある。
その一方、暴力団の威力を利用することにより民事問題の解決を図ろうとして、暴力団員に対し、債権取立て、交通事故の示談交渉、不動産賃貸借のトラブルの解決等を依頼する者も少なからず存在しており、このことが民事介入暴力行為が社会的に大きな問題になっていながら、容易に解決できない原因の一つとなっている。
(乙一ないし七、二三、二六、二七、甲三、弁論の全趣旨)
3 暴力団間の対立抗争事件の多発
(一) 暴力団は、その組織の拡大又は縄張・資金源の拡大・維持のために、他の暴力団との間に対立抗争を引き起こしてきた。このような対立抗争は、昭和六〇年に全国的な規模で多発した山口組と一和会との対立抗争が終結した後においても(同年の対立抗争の総発生回数二九三回)、毎年頻繁に発生しており、平成元年には一五六回、平成二年には一四六回も発生している。原告についても、その縄張の維持等のために、五代目山口組等の暴力団と対立抗争を起こしている。
(二) 近年の対立抗争の際立った特徴は、そのほとんどの抗争事件でけん銃等の銃器が使用されていることである。暴力団の対立抗争は、このように銃器が使用されるため、暴力団事務所付近の住民に多大な不安を与えるとともに、児童の通学路の変更、商店街の客足の減少等市民の日常生活へ甚大な影響を与えている。さらに、これに加えて、市民が対立抗争の巻き添えになることも少なくない。現に、暴力団事務所付近の民家にけん銃が打ち込まれる事件が多数発生しており、また、対立抗争の巻き添えにより市民が死傷する事件も、昭和六〇年から平成二年までの間に八件起きている。
なお、原告についてみても、昭和六二年以降に原告の構成員から押収されたけん銃は約一六〇丁に及んでおり、原告と他の暴力団との対立抗争が発生した場合に、けん銃が使用されるおそれは極めて大きいものがある。
(以上全部につき、乙一ないし四、七ないし一〇、一五、一六、一八、二〇、二三、二六、二七、甲三、弁論の全趣旨)
4 暴力団事務所の存在による不安感
(一) 従来、暴力団事務所は、その外部に大々的に団体の代紋や名称を記載した看板を掲げ、また、その周辺に一目で暴力団員と分かる者がたむろするなどしており、これによって市民が不安を感じ、また、暴力団事務所付近の商店等の客足が減少するなどの被害が発生している。原告においても、暴対法制定の直前まで、その事務所の外部に代紋を記載した看板を掲げていた。
(二) 暴力団事務所についての不安・迷惑については、警察庁が民間調査機関に委託して、平成三年二月から三月にかけて政令指定都市を中心に全国一六都道府県の住民三〇〇〇名を無作為に抽出して行ったアンケート調査の結果(有効回答数二〇三九名)でも、不安・迷惑を感じている者が全体の約八〇パーセントを占め、その内容としては、対立抗争の巻き添え、暴力団員の暴力団事務所周辺のうろつき・たむろ、暴力団員による暴力団事務所周辺の違法駐車、暴力団事務所の存在自体による威圧感、暴力団事務所に出入りする暴力団員の乱暴な言動等となっている。
(三) これらの不安等から、暴力団事務所の撤去を求める住民運動が全国的に行われており、平成二年には、民事訴訟などの手続によって暴力団事務所の撤去が行われた件数は一九一件に達した。しかし、このような住民運動も容易に行えるものではなく、住民運動を行った者が暴力団員から嫌がらせを受けたり、関係者が暴力団員から傷害を受けるなどの被害が発生した。
原告についても、原告の傘下組織の事務所明渡しを求める訴訟を提起した住民に対し、原告の構成員が写真撮影して威嚇したり、事務所周辺の住民が暴力団追放運動を行ったところ、原告の構成員が、入れ墨を見せつけて威迫するなどし、営業を妨害した例がある。
(以上全部につき、乙一、一二、一五、一八、二三、二六、二七、甲三、弁論の全趣旨)
5 暴力団についての世論
一般市民の間には、暴力団を容認し、その必要性を認める意見はほとんどない。警察庁が民間調査機関に委託して、平成元年に一般市民三〇〇〇名を対象に行ったアンケート調査の結果(有効回答数二一六三名)では、暴力団を作ることを法律により規制することを望む者が全体の約七五パーセントを占めている。
また、前記(4の(二))の平成三年二月から三月に行ったアンケート調査の結果でも、暴力団に対する新たな規制法律制定の必要があるとした者及び暴力団員の民事介入暴力等についての国・自治体への要望として暴力団員の民事介入暴力行為を禁止してほしいとする者が、それぞれ九〇パーセントを超えている。
(乙一、二、弁論の全趣旨)
6 暴対法の制定理由
従来から暴力団取締りの問題は治安上の重要課題として、警察だけに限らず民間その他様々の機関がこれに取り組んできたところであるが、右1ないし5で述べたように、暴力団側も、民事介入暴力行為や企業対象暴力行為などといった一般市民等に対し不安・迷惑あるいは実質的被害を与える行為ではあるが、現行法令では必ずしも犯罪として検挙し得ないようなグレーゾーンでの資金獲得を図る手段を考える等、警察の取締りに対抗する手段を次々考え出すに至っており、また、広域暴力団の拡大、寡占化に伴う対立抗争による一般市民の不安・迷惑等もますます増大してきている。このような暴力団情勢の変化、変質にかんがみ、新たな暴力団対策の必要性が行政及び民間の双方に認識されるようになった。
そこで、警察庁では、以上のような事情を踏まえ、現行法令では十分にカバーされていない、あるいは現行法令に抵触しないような形で敢行されている暴力団員による各種の不当な行為を規制していくべきであるとの結論に達し、①暴力団員による非犯罪的不当行為を行政命令によって規制していく、②警察としての治安責任を果たすため、暴力団相互間の対立抗争が発生した場合に、現在の緊急事態に対処する最低限度の対策を行政的手法によって行う、③民間における暴力団追放運動の促進を図る機構を整備する、との内容を基本とする新法案を作成し、その成立を図ることとしたのである。
(乙一ないし三、一二ないし一四、弁論の全趣旨)
二 立法経緯
暴対法、施行令、施行規則及び聴聞規則等の立法経緯は、第二の二(争いのない事実)5記載のとおりである。
(争いがない)
三 立法目的
暴対法の目的は、暴力団員の行う暴力的要求行為等について必要な規制を行い、及び暴力団の対立抗争等による市民生活に対する危険を防止するために必要な措置を講ずるとともに、暴力団員の活動による被害の予防等に資するための民間の公益的団体の活動を促進する措置等を講ずることにより、市民生活の安全と平穏の確保を図り、もって国民の自由と権利を保護することにある(法一条)。
そして、右目的を達成するための方法として、暴対法においては、次のような規制措置等を行うこととしている。
① 暴力団員による民事介入暴力行為が広範に行われ、市民に多大な被害を与えているが、犯罪捜査という手法によっては解決できない事例が多いことから、暴力団員が行う一定の類型の民事介入暴力行為について行政的な規制を行い、市民の被害を防止すること。
② 暴力団の対立抗争が発生した場合に、暴力団事務所付近の住民等に多大な被害、迷惑、不安感を与えていることから、対立抗争の早期鎮圧等を目的として暴力団事務所の使用制限を行い、対立抗争による一般市民に対する危害を防止すること。
③ 暴力団員が、暴力団事務所及びその周辺において一般市民に対する迷惑行為を行っていることから、その防止のための措置を講ずること。
(顕著な事実)
四 暴対法の規定の趣旨
1 暴対法の基本的な仕組み
暴対法による暴力団員の行為の規制の基本的な仕組みは、次のとおりである。
(一) 指定(法三条、四条)
暴対法は、暴対法による規制対象となる者(暴力団員)を特定するため、一定の要件を満たす暴力団について、その暴力団の構成員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれが大きい暴力団として指定し、指定された暴力団(指定暴力団)の構成員(以下、指定暴力団員という。)に対し、暴対法による規制が及ぶものとしている。
(二) 禁止行為(法九条、一六条、一八条)
指定暴力団員は、法九条、一六条、一八条に規定する行為を行うことが禁止される。
(三) 行政命令(法一一条、一二条、一五条、一七条、一九条)
都道府県公安委員会は、指定暴力団員が右の規定による禁止行為を行った場合には、当該行為の中止等を命ずることができ、また、指定暴力団相互間で対立抗争が発生した場合において一定の要件を満たすときには、当該指定暴力団の事務所を現に管理している指定暴力団員に対し、一定期間、当該事務所を法一五条一項に規定する用に供することを禁止することを命ずることができることとし、この命令により指定暴力団員の行為の規制を行うこととしている。
(四) 罰則(法三四条、三五条)命令の実効性を担保するため、命令に違反する行為を行った者に対する罰則を設けている。
(以上全部につき、争いがない)
2 暴対法三条の規定の趣旨及び各号の要件
(一) 法三条の趣旨
法三条は、法による規制の対象となる者を特定するため、暴力団を指定することにより、その構成員である指定暴力団員以外の者が規制の対象とならないようにしている。
法三条一号から三号までの要件は、三条指定の要件を定めたものである。
暴力団以外の団体は、三条指定の対象となることはない(法二条二号)。
なお、三条指定については、法三条各号に定める実体上の要件ばかりでなく、三条指定のための事前手続(聴聞、審査専門委員の意見聴取、国家公安委員会の確認)を経ることにより、暴力団以外の団体が指定されないための手続面での保障規定も設けられている。
(二) 法三条一号
法三条一号は、団体の実質上の目的についての要件(以下、一号要件ともいう。)である。暴力団員は、暴力団の威力を利用して様々な資金獲得活動を行っているが、暴力団の威力をその構成員に利用させ又はその利用を容認することが暴力団の実態である点をとらえて、これを実質上の目的として三条指定の要件としたものである。
ここでいう「実質上の目的」とは、「名目上の目的」と対比されるものであり、団体の活動実態によって当該団体の目的が判断される。
(三) 法三条二号
法三条二号は、暴力団には、暴力団員が犯すことの多い犯罪(法の別表に掲げる二八の法律に定める犯罪)を行った経歴のある者が著しく多く含まれている事実に着目し、構成員又は幹部の中に一定の比率を超える犯罪経歴保有者がいる団体であることを要件(以下、二号要件ともいう。)としたものである。犯罪経歴保有者比率は政令で定めているが、右比率は、後記(五)記載のとおり、いわゆる二項分布という確率計算の方法により、集団の人数の区分に応じて、国民の中から任意に抽出した集団における犯罪経歴保有者の占める比率が、政令で定める比率以上となる確率が一〇万分の一以下となる比率(比較基準比率)を算出して規定したものである(施行令一条参照)。
また、法三条二号でいう「幹部」とは、法三条三号の要件とされている階層的組織構成の上層部にある者を意味し、その範囲は、施行規則二条において、客観的な基準により決めることとされている。
(四) 法三条三号
法三条三号は、暴力団が組長等の統制を受けて、階層的に組織構成されている団体であるという特徴を有する点をとらえて、この特徴を有することを要件(以下、三号要件ともいう。)とするものである。
なお、法三条三号でいう「運営を支配する地位にある者」とは、その法文から明らかなとおり、団体を統制している者を意味する。
(五) 比較基準比率の定め方
第三の二の3(暴対法三条二号の違憲性)(二)被告の主張の(3)イ記載のとおりである。
こうして定められたのが、施行令一条の比率である。
(以上(一)ないし(四)は争いがない。(五)につき、乙三七、三八、弁論の全趣旨)
五 聴聞と指定の経緯
1 本件聴聞通知書の送達
被告は、平成四年四月二四日、京都府警察本部職員をして、原告の本部事務所において、原告代表者に対し、本件聴聞通知書を交付しようとしたところ、原告代表者は、その内容を理解した上で、警察庁が原告を含む七団体を指定暴力団として適用するとの方針を発表したことは不公正な措置であり、憲法上も許されないなどと書いた声明書を差し出したうえ、同旨を口頭で述べて受領を拒否したため、聴聞規則四一条二項で準用する施行規則四一条二項二号に基づき、本件聴聞通知書をその場に差し置いて送達した。
(第二の二(争いのない事実)7、甲一二、乙三四、三六、四九、証人綿貫茂)
2 本件聴聞通知書の理由の記載の程度
本件聴聞通知書には、法五条二項所定の「指定をしようとする理由」として別紙二のとおりの理由が記載されている。
(第二の二(争いのない事実)7、甲二四、乙三二)
3 本件聴聞の経緯
本件聴聞は、平成四年五月二一日午後一時三〇分から実施された。
被告は、本件聴聞の冒頭において、聴聞規則一九条一項の規定に基づき、指定をしようとする理由として本件聴聞通知書記載の理由(別紙二)と同内容の理由を告知した。これに対し、原告代表者及び補佐人は、約二時間三〇分にわたり意見を述べ、合計一八点の証拠を提出した。
原告は、また、公安委員全員に対し忌避の申立てを行ったが、原告の補佐人が申し述べた忌避理由は、聴聞規則の規定はずさんであり、憲法一四条に違反する聴聞規則に基づく審理は、それ自体が審理の公正を妨げるおそれがあるので、聴聞規則五条本文を類推適用するとともに、聴聞において主宰者である公安委員を参考人として証言を求める予定であって、聴聞規則四条四号により将来の除斥事由が発生することになるので、同号及び聴聞規則五条を類推適用し、一般条項に基づき公安委員全員の忌避を申し立てる、というものであったから、聴聞主宰者である被告は、聴聞規則五条所定の忌避事由に該当しないことが明らかであるとして、聴聞規則七条ただし書の規定に基づき、これを却下した。
また、本件聴聞において、原告の補佐人は、その意見陳述の冒頭において暴対法が憲法に違反して無効であることにつき述べようとしたため、被告は、行政機関としてそもそも法律の憲法適合性を審査する権限を有しておらず、暴対法が憲法に違反するかどうかを判断する立場にないため、暴対法自体の違憲論を聴取することが無意味であることから、右補佐人の陳述は聴聞規則二二条三項の「聴聞において発言しようとするものが事案の範囲を超えて発言するとき」に該当するものであるとして、右発言を制限した。
そして、被告は、証拠調べ終了後、指定の可否の決定をするについて審理が熟したものと認め、原告に対し、他に意見がないことを確認した上で聴聞を終結した。
(以上につき、第二の二(争いのない事実)8、甲一六ないし二一、二三、二六ないし二八、検甲二、乙三五、三六、四九、証人綿貫茂)
4 本件指定通知書の理由記載の程度
本件指定通知書には、法七条三項、施行規則六条五号所定の「指定をした理由」として別紙三記載のとおりの理由が記載されている。
(甲四〇、乙三三)
六 本件指定処分の構成要件該当性
1 原告の組織構成、活動実態等(沿革、組織構成、組織運営の方法、活動実態)に関する事実は、第三の四の1(被告の主張)の(一)の(1)ないし(4)記載のとおりである。
(甲一、二、三、一〇二、乙一五、二〇ないし二九、三九ないし四一、四三ないし四六、四九、証人田中久治、同綿貫茂、弁論の全趣旨)
2 暴対法三条一号要件該当性(暴力団としての威力の存在、原告の構成員の資金獲得行為の実態、原告の容認実態)に関する事実は、第三の四の1(被告の主張)の(二)の(1)ないし(3)記載のとおりである。
(乙一五、一六、一八ないし二〇、二二ないし二八、三〇、三一、三九ないし四七、四九、甲三、証人田中久治、同綿貫茂、弁論の全趣旨)
3 暴対法三条二号要件該当性(原告の構成員の数、幹部の範囲及び数、幹部のうち犯罪経歴保有者の比率)に関する事実は、第三の四の1(被告の主張)の(三)の(1)ないし(3)記載のとおりである。
(乙一七、二三、三五、三九ないし四九、甲三、証人田中久治、同綿貫茂、弁論の全趣旨)
4 暴対法三条三号要件該当性(原告の階層的組織構成団体性、代表者の統制)に関する事実は、第三の四の1(被告の主張)の(四)の(1)、(2)記載のとおりである。
(乙一五、二一ないし二五、二九、三九ないし四六、四九、甲三、証人田中久治、同綿貫茂、弁論の全趣旨)
第五 判断(以下、一ないし三において、1、(一)等の番号が付された判断は、第三争点及び当事者の主張中の原告の主張に対応するものである。)
一 暴対法全体の違憲性について 1 暴対法の立法目的について
(一) 原告は、暴対法は、特定の団体(暴力団)を壊滅させることを目的として制定されたものであるから、暴対法及びその関係法令全体が憲法二一条一項、一四条に違反すると主張する。
しかし、暴対法は、前認定(第四の一、三)のとおり、広域暴力団の拡大と寡占化、民事介入暴力行為の増加、対立抗争事件の多発と巻き添えの危険性等暴力団情勢の変化、変質にかんがみ、「暴力団員の行う暴力的要求行為等について必要な規制を行い、及び暴力団の対立抗争等による市民生活に対する危険を防止するために必要な措置を講ずるとともに、暴力団員の活動による被害の予防等に資するための民間の公益的団体の活動を促進する措置等を講ずることにより、市民生活の安全と平穏の確保を図り、もって国民の自由と権利を保護すること」を目的として制定された法律で、その目的を達成するため、暴力団自体ではなく、暴力団員の行う民事介入暴力行為について行政的規制を行い、対立抗争時には暴力団事務所の使用制限や事務所周辺における迷惑行為を規制することとしており、これら立法目的、規制措置の内容等に照らすと、暴対法は、暴力団の壊滅を目的として制定されたものとは認められず、原告の右主張は、その前提を欠き、失当というべきである。
(二) 原告は、任侠道を信奉する者が結集した団体であり、この任侠道に生きる原告及びその構成員を、暴力団と指定して社会的に差別し、幸福追求権を阻害し、私生活上の自由を侵害する暴対法は、憲法一三条に違反すると原告は主張する。
確かに、右規制の内容に照らすと、暴力団の私生活上の自由等が制約を受ける結果になることは明らかである。しかし、かかる基本的人権も他者の人権との調和の観点から内在的な制約を受ける外、公共の利益のための必要から、一定の合理的制約を受けることもやむをえないものといわなければならない。そして、この自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、公共の利益のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的な制限の態様及び程度等を比較較量して決せられるべきものである(最判昭和五八・六・二二民集三七巻五号七九三頁参照)。
本件の場合、暴対法の立法目的は前示のとおりであって、その目的自体必要かつ合理的なものということができる。そして、暴力団の実態は、前認定(第四の一)のとおりであって、原告主張の暴力団員の自由自体、一般市民の人権を侵害して成り立っているもので、反社会的で不当な権利、自由といわざるをえないうえに、規制措置の内容も、前示のとおり、民事介入暴力行為や対立抗争時の事務所の使用制限等、暴力団の活動による市民の被害を防止し、市民生活の安全と平穏の確保を図るための規制であって、これらの制限の態様及び程度も必要かつ合理的なものと認められる。
したがって、暴対法による規制は、公共の利益のための必要からなされた合理的でやむをえないものと認められ、原告の右主張は、採用することができない。
2 暴対法の立法体系の違憲性について
(一) 原告は、暴対法は、集会結社自体を団体規制するものであるから、憲法二一条一項に違反すると主張する。
しかし、右1の(1)のとおり、暴対法は、暴力団という団体自体の規制を行うことを目的としておらず、規制の態様も暴力団員を対象としていることは明らかであるから、右主張は、その前提を欠き、採用できない。
(二) 原告は、暴対法は、不明確な概念を含む規定による制約を招くこととなり、集会結社の自由を保障する憲法二一条一項に違反すると主張する。
しかし、法律の規定が不明確か否かは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合にその規定が適用されて、そこで定める行為規制を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかどうかによってこれを決定すべきところ(最判昭和五〇・九・一〇刑集二九巻八号四八九頁参照)、原告が不明確と主張する文言は、暴対法の目的、各規定の仕方等に照らすと、通常の判断能力を有する者であれば、その判断を可能ならしめる基準を読み取ることができると認められるので、いずれも不明確な規定ということはできない。
よって、右主張も採用できない。
(三) 原告は、暴対法九条以下の各規定が憲法に違反する旨るる主張するが、これらは、いずれも本件指定処分の手続上及び実体上の要件を定める規定ではなく、これらの行為規制は本件指定処分に係る法律関係とは別個のものであるから、右主張は主張自体失当として、判断の限りでない。
3 立法過程における違憲性と運用違憲について
原告は、国会審議の不十分、附帯決議の不遵守、警察庁の広報行為等について、違憲性を主張する。
しかし、附帯決議には法的効力はなく、暴対法施行に当たり、政府に対する留意点を指摘して、その実効に遺憾なきを期すべき要望したものにすぎない。
内閣の法案提出権、国会の審議権、法案の議決権等の行使については、それぞれ裁量権が認められると解するのが相当である。確かに、前示(第二の二争いのない事実4、5)のとおり、暴対法は、法案提出後一か月余りの短期間で成立したことが明らかであり、附帯決議の九項(別紙一参照)には、警察庁に対して、法案の提出時期の改善と立法府の審議権の保証に配慮を払うことが決議されているが、法案の審議にどの程度の時間をかけるかは、専ら各議院の判断によるものであり、その時間の長短により、公布された法律の効力が左右されるものではない(最判平成四・七・一判時一四二五号四七頁参照)。
また、警察庁の広報行為の違法は、本件指定処分の効力に影響を及ぼすものではない。
したがって、原告の右主張は、理由がない。
二 暴対法関係法令各条項の違憲性について
1 暴対法三条全体の違憲性について
(一) 原告は、暴対法三条は、非犯罪行為である指定暴力団員の生計の維持のための資金獲得行為をも否定するものであり、憲法一三条、二五条、一四条、二一条一項、三一条に違反すると主張するが、暴対法三条は、指定暴力団の要件を定める規定にすぎず、同条自体によって暴力団員の行為が規制されるものではないから、右主張は、その前提を欠き、理由がない。
(二) 原告は、本件指定処分は、暴対法二条二号の要件の充足性を認定していないと主張するが、同条項は、三条指定の前提となる暴力団等の定義を定めており、本件指定処分は、原告が、同条項にいう暴力団に該当することを当然の前提としてなされたことは明らかであるから、右主張は、理由がない。
また、原告は、暴対法二条二号、三条柱書きの文言が不明確と主張する。しかし、右文言が不明確といえないことは、前示(一の2の(二))のとおりである。
原告は、公安委員会に指定権限が付与された点等を憲法違反と主張するが、警察法三八条四項、五条三項に照らし、判断の限りでない。
2 暴対法三条一号の違憲性について
(一) 原告は、一号要件である「実質上の目的」の認定は公安委員会の職権的秘密主義に貫かれており、憲法一三条、三一条に違反すると主張する。
暴対法三条の趣旨及び一号の要件は、前認定(第四の四の2の(一)、(二))のとおりであって、暴力団の活動実態によって実質上の目的を判断するものであり、聴聞(法五条)、審査専門委員の意見聴取及び国家公安委員会の確認(法六条)という事前手続の保障もなされており、右目的の認定が適正手続を欠くとは認められない。
(二) 原告は、一号要件が不明確であると主張するが、この点は、右1(二)のとおりである。
3 暴対法三条二号の違憲性について
(一)(1) 原告は、犯罪経歴保有者の比率をもって三条指定の要件とするのは、当該犯罪経歴保有者をその社会的身分により差別するものであり、また、これらの者を構成員とする団体に対する差別となるものであるから、憲法一四条に違反すると主張する。
法三条二号の要件は、暴力団には犯罪経歴保有者が多数その構成員となっているという特性に着目し、これを要件としたものにすぎず、犯罪経歴保有者を犯罪経歴を有するという理由で差別するものではない。
また、憲法一四条一項にいう社会的身分とは、人が社会において占める継続的な地位をいうものと解される(最判昭和三九・五・二七民集一八巻四号六七六頁参照)ところ、一定の比率を超える犯罪経歴保有者を構成員とする団体であることは、右にいう社会的身分には該当しないと解するのが相当であるから、右主張は、その前提を欠き、理由がない。
(2) 原告は、指定暴力団員という社会的身分に基づく規制がされるという不合理な差別を受けることになるから、憲法一四条に違反すると主張するが、憲法一四条は、国民に対し、絶対的な平等を保障したものではなく、事柄の性質に即して合理的と認められる差別的取扱をすることは、何ら同条の否定するところではないと解するのが相当である(右昭和三九年最判、最判昭和四五年六月一〇日民集二四巻六号四九九頁参照)。
そして、指定暴力団員に対する暴対法の規制が必要かつ合理的であることは、前示(一の1の(二))のとおりであるから、右差別的取扱は合理的ということができ、原告の主張は理由がない。
(3) 原告は、集団の人数の多少により犯罪経歴保有者比率の区分を設けることには関連性及び合理性がなく、憲法一四条に違反すると主張するが、右犯罪経歴保有者比率の定め方は、前認定(第四の四の2の(五))のとおりであって、何ら不合理とは認められない。
(4) 原告は、法三条二号の要件は、犯罪経歴保有者が少ない団体を是とし、多い団体を非とする価値観を採用するものであり、憲法一四条に違反する旨主張するが、犯罪経歴保有者比率の要件は、暴力団性の判断のために設けられたものであり、この要件によって暴力団の是非の価値判断をするものではないから、右主張は、その前提を欠き、理由がない。
(5) 原告は、刑の言渡しの効力が消滅した者(恩赦、執行猶予期間経過者等)を犯罪経歴保有者とするのは憲法一四条に違反すると主張するが、暴対法は、暴力団の特質に鑑み、刑法等とは異なる見地から犯罪経歴保有者の要件を定めたものであって、その内容は合理的と認められ、憲法一四条に違反するものではない。
(二)(1) 原告は、暴対法三条二号の要件は、犯罪経歴保有者が少ない団体を是とし、多い団体を非とする価値観を採用するものであり、憲法二一条に違反すると主張するが、この点の判断は、右(一)の(4)に判示したとおりである。
(2) 原告は、暴対法三条二号の「幹部」の概念は極めて不明確であり、団体の定める幹部とは無関係に幹部を決定し、これについて犯罪経歴保有者比率を判断するというのは、団体の結社の自由に対する干渉であると主張する。
しかし、右三条二号にいう「幹部」の概念は、前認定(第四の四の2の(三))のとおりであって、不明確とはいえず、また、右「幹部」概念により犯罪経歴保有者比率を判断するにすぎないから、法三条二号は、何ら暴力団の結社の自由を侵害するものではない。
(3) 原告は、暴対法三条二号の「政令で定める比率」の基準設定は、一義的明確性を著しく欠くと主張するが、同条号の規定に照らして、不明確とは認められない。
(三) 原告は、施行令、施行規則は、暴対法の委任に基づかず、委任の範囲を超えていて違法無効であると主張する。
しかし、暴対法三条二号の趣旨、要件、比較基準比率の定め方は、前認定(第四の四の2の(三)、(五))のとおりであって、施行令、施行規則とも、暴対法の委任を受けて、その範囲内で定められているものと認めるのが相当である。比較基準比率の計算において、いかなる確率計算の方法を採用するかは、内閣(政令)に委ねられているものと解されるので、二項分布を用いて右比率を計算したことも、委任の範囲を超えているということはできない。右主張は、採用できない。
4 暴対法三条三号の違憲性について
原告は、暴対法三条三号の「運営を支配する地位にある者」の概念は、その内容が不明確であると主張するが、前認定(第四の四の2の(四))のとおり、団体を統制している者を意味することは、法文上明らかであり、不明確ということはできない。
5 聴聞規則五条の違憲性について
原告は、聴聞規則五条に定める忌避事由は、暴対法五条の聴聞の場合は適用の余地がなく、二三条の聴聞の場合にも一部適用の不能なものであって、審理の公正を図る必要から設けられた聴聞における忌避規定が忌避事由を制限するのは不平等かつ不適正であると主張するが、聴聞規則五条は、主宰者が暴対法九条又は一六条の規定に違反する行為の相手方と一定の関係を有する場合に、これを忌避事由とするものであり、二三条に係る聴聞における忌避事由を定めたものである。したがって、聴聞規則五条が暴対法五条の指定に係る聴聞の場合に適用がないのは、その規定上当然のことである。暴対法五条に係る聴聞における聴聞主宰者の公正を保障する規定として、聴聞規則四条に除斥事由が定められており、聴聞手続における主宰者の公正は十分担保されているから、右主張は、理由がない。
三 本件指定処分の手続の違法性について
1 聴聞通知書の送達の違法性について
本件聴聞通知書の送達の経緯は、前認定(第四の五の1)のとおりであって、聴聞規則四一条二項で準用する施行規則四一条二項二号に定める差置送達の要件を満たしており、何ら違法な点はない。
なお、原告は、右送達は、附帯決議二項に違反する旨主張するが、右附帯決議二項は、法的効力はない(前示一の3参照)うえに、聴聞通知書の送達手続を定めたものではないから、右主張は失当である。
2 聴聞通知書の理由付記の違法性について
聴聞通知書に指定理由の記載が要求される理由は、指定対象者に反論の機会を保障し、三条指定の適正を図る趣旨で設けられた聴聞において、法三条各号の要件該当性の有無について指定対象者に意見及び証拠提出の準備をさせ、実質的に攻撃防御を行うことができるようにするためであると解するのが相当である。本件聴聞通知書には、別紙二のとおりの理由が記載されており、右趣旨に照らし、理由の記載としては十分と認められる。なお、原告が暴力団であることの記載もなされていることは明らかである。この点に関する原告の主張も理由がない。
3 聴聞審理における指定理由の不告知等の違法性について
原告は、本件聴聞において、被告は、原告の補佐人からの忌避申立てを却下して、本件聴聞の審理を開始した上、その冒頭において、本件聴聞通知書に記載された「指定をしようとする理由」と同内容の理由を告知しただけで、聴聞規則一九条一項が求める適法な理由告知をしなかったと主張する。
本件聴聞の経緯は前認定(第四の五の3)のとおりである。聴聞規則一九条において、「指定をしようとする理由」の告知が要求される趣旨は、右2で説示したのと同旨と解するのが相当である。とすれば、本件聴聞通知書記載の理由と同内容の理由の告知で十分と認められる。
また、原告のした忌避の理由は、聴聞規則五条に該当しないことは明らかであるから、同規則七条ただし書に基づいてした忌避申立て却下は相当であって、何ら手続上の違法はない。
4 聴聞審理において違憲論の主張を制限した違法性について
原告は、聴聞審理において原告の暴対法の違憲性に関する陳述を制限したことは違法であると主張するが、被告が、右陳述を制限した経緯は前認定(第四の五の3)のとおりであって、右手続に何ら違法な点はない。
5 聴聞の終結処分の違法性について
原告は、指定理由を告知せず、暴対法の違憲論の陳述を制限してなされた聴聞終結処分は違法と主張するが、前認定(第四の五の3)の経緯で、被告は、本件聴聞手続を終結したもので、右手続に違法な点はない。
6 指定通知書の理由付記の不備の違法性について
原告は、本件指定通知書には、暴対法七条三項、施行規則六条五号に定める「指定をした理由」の記載がないと主張するが、指定通知書に指定をした理由の記載が要求される趣旨は、公安委員会の判断の慎重性、合理性を担保するとともに、処分の相手方に理由を知らせ、事後の争訟提起に便宜を与えるためと解するのが相当である。本件指定通知書には、前認定(第四の五の4)のとおり、別紙三のとおりの理由が記載されているのであるから、右趣旨に照らして、理由の記載として十分と認められる。
四 本件指定処分の構成要件該当性について(以下、1は、第三争点及び当事者の主張の四の1に、2ないし4は、同四の2に対応するものである。)
1 原告の組織構成、活動実態等、暴対法三条一号、二号、三号の各要件該当性に関する事実の認定は、第四の六の1ないし4のとおりである。
したがって、暴力団である原告は、暴力団としての威力を有しており、原告の構成員が右威力を利用して資金獲得行為を行うことを容認していると認められ、暴対法三条一号の要件を満たすことが認められる。
そして、原告に係る施行規則三条一項の基準日である平成四年四月二〇日時点における原告の構成員の総数は一五九八人で、施行規則二条に該当する幹部の数は一六九人、このうち法三条二号に規定する犯罪経歴保有者は六四人であり、右人数の幹部に占める割合は37.87パーセント(小数点以下第三位四捨五入)となり、施行令一条に定める集団の人数が一六〇人から一六九人の範囲にある場合における犯罪経歴保有者比率6.26パーセントを超えるものであるから、原告は三条二号の要件を充足する団体ということができる。
さらに、原告は、会長を頂点として階層的に組織構成されており、幹部の厳格な統制が及んでいることが認められるので、三条三号の要件にも該当することが認められる。
2 原告は、原告が、暴対法二条二号の暴力団に該当せず、創始以来の任侠団体であって、その構成員が原告の威力を利用することを容認しておらず、構成員中の犯罪経歴保有者が行った暴力的不法行為等は原告の助長により遂行されたものではないから、三条一号の要件に該当しない旨主張するが、前認定(第四の六の1ないし4)の事実に照らして、右主張が採用できないことは明らかである。
3(一) 原告は、施行令一条は、構成員全員における犯罪経歴保有者比率のみを定めており、幹部構成員におけるそれを定めていないと主張する。
しかし、施行令一条は、集団の人数区分に応じて比率を定めているにすぎず、右集団が、当該暴力団の幹部構成員のみによる集団か、全構成員による集団かの区別をしていないのであるから、右いずれの集団に対しても適用されるべきものとして制定されたと解するのが相当である。したがって、右主張は採用できない。
(二) 原告は、被告には、本件指定処分に際し、原告の法三条二号、三号の要件該当性を認めるに足りる資料が存在しなかった旨主張するが、証人田中久治の証言によれば、被告は、事実認定に供した前掲各証拠に基づいて、本件指定処分をしたことが認められ、右主張は理由がない。
(三) 原告は、施行規則三条二項一号にいう「最近」は、あいまいな概念であり、同号の要求する資料には何の限定もなく、根拠や正確性の乏しい主観的文書も意図的に使用することを許容するもので、暴対法三条に違反すると主張する。
原告の右主張が、暴対法三条のいずれに違反するのか判然としない点はさておき、「最近」とは、施行規則三条一項にいう基準日を基準として、時間的に近接していることを意味するものであり、あいまいな概念とはいえない。また、施行規則三条二項一号の資料に限定のないことは指摘のとおりであるが、右条文の趣旨は、根拠、理由のある資料を意味していることは、規定上明らかであるから、この主張も理由がない。
(四) 原告は、原告は本家のみを意味し、幹部は会長だけであると主張するが、前認定(第四の六の1ないし4)の事実に照らし、採用できない。
(五) 原告は、犯罪経歴保有者比率の算定の基準日は、指定公示日とすべきであると主張するが、右比率の算定自体、ある程度の日数を要することは避けられず、そのため、右比率の算定基準日を、聴聞期日前三〇日以内とした施行規則三条一項の定めは合理的ということができるので、右主張は採用できない。
4(一) 原告は、暴対法三条三号の要件は社団性を前提とするものであると主張するが、三条指定の対象となる暴力団の社団性の有無は、問題となる余地はないと解するのが相当である。
(二) 原告は、本部と傘下組織は別個の団体であるから、指定するのであれば暴対法四条によるべきであると主張するが、原告の組織構成、活動実態等は、前認定(第四の六の1ないし4)のとおりであって、その傘下組織を含めて全体が一体性のある団体として、三条指定の要件を充足していることが認められるので、被告が、原告に対し、三条指定をしたことは、何ら違法ではない。
五 民訴法三三八条の適用の有無について
原告は、被告代表者が、平成七年五月二六日の本人尋問期日に、正当の事由なく出頭しなかったとして、原告の主張事実を真実と認めるべきであると主張する。
たしかに、本件口頭弁論の経緯に徴すれば、被告代表者は右期日に正当の事由なく出頭しなかった疑いが濃厚ではあるけれども、被告代表者の右不出頭につき民訴法三三八条を適用するか否かは、当裁判所の裁量に委ねられているものであるところ、本件においては、前示のとおり、関係各証拠に基づき認定した事実に照らし、本件指定処分は適法になされたものと認められるのであるから、当裁判所としては、これに反する結果となるような同条の適用は相当でないと判断し、同条を適用しないこととした。
第六 結論
以上のとおりであって、本件指定処分は適法であり、その取消を求める原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官松尾政行 裁判官中村隆次 裁判官府内覚)
別紙一
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律案に対する附帯決議
衆議院
政府は、本法施行に当たり、次の諸点に留意し、その実効に遺憾なきを期すべきである。
一 暴力団の不法、不当な行為による国民の権利、自由への侵害はいまや放置することができない実情にあることにかんがみ、関係機関の協力を緊密にし、暴力団の壊滅のための総合的かつ有効な対策を確立することに努めるとともに、本法の的確な運用を含めて暴力団の不当行為及び犯罪の摘発、取締りを強化し、その解体と団員の更生を推進すること。
二 本法の運用に当たっては、国民の人権の侵害、事業者の営業の自由を損ねないよう特段の配慮を払うとともに、職権の濫用のないよう十分留意すること。
三 本法に基づく質問権、立入権等については慎重に運用すること。
四 法の精神に基づき、公開による聴聞の原則を遵守し、例外規定の行使については慎重な検討を行うこと。
五 本法が、事業者に対して責務と負担を求めるものではないこと及び事業者に対する援助等は事業者の要望に基づき、任意に行われるものであることに留意すること。
六 都道府県暴力追放運動推進センター等の設置と運営については、国民や事業者の誤解を招くことのないよう大分な配慮を払うこと。
七 警察官の綱紀粛正に努めるとともに、警察官、警察事務職員をはじめとする地方公務員の待遇改善を推進すること。
八 本法施行に伴う政令、国家公安委員会規則及び運用については、国会のしかるべき場において意見を聴くなど、的確な措置を講ずるほか、本法の運用に当たっては、広く国民の意見を反映させるため必要な措置を講ずること。
九 警察庁は、法案の提出に際してはその時期等について改善を図るとともに、立法府の審議権の保証に特段の配慮を払うこと。
右決議する。
参議院
政府は、本法施行に当たり、次の諸点に留意し、その実効に遺憾なきを期すべきである。
一、暴力団の不法、不当な行為による国民の権利、自由への侵害はいまや放置することができない実情にあることにかんがみ、関係機関の協力を緊密にし、暴力団の壊滅のための総合的かつ有効な対策を確立することに努めるとともに、本法の的確な運用を含めて暴力団の犯罪及び不当行為の摘発、取締りを強化し、その解体と団員の更生を推進すること。
二、本法の運用に当たっては、国民の人権を侵害し、事業者の営業の自由を損なわないよう特段の配慮を払うとともに、いやしくも職権が濫用されることのないよう十分留意すること。
三、本法に基づく質問権、立入権等については慎重に運用すること。
四、法の精神に基づき、公開による聴聞の原則を遵守し、例外規定の行使に当たっては慎重な検討を行うこと。
五、本法が、事業者に対して責務と負担を求めるものでないこと及び事業者に対する公安委員会の援助等の措置は事業者の申出に基づき、任意に行われるものであることに留意すること。
六、都道府県暴力追放運動推進センター等の設置と運営については、国民や事業者の誤解を招くことのないよう十分な配慮を払うこと。
七、警察官の綱紀粛正に努めるとともに、警察官、警察事務職員等の待遇改善を推進すること。
八、本法に基づく政令及び国家公安委員会規則並びにその運用については、本委員会に設置される小委員会において意見を聴くなどの措置を講ずるほか、本法の運用に当たっては、広く国民の意見を反映させるため必要な措置を講ずること。
九、警察庁は、法案の提出に当たっては、立法府の審議権を損なうことのないよう、その時期等について改善を図ること。
右決議する。
別紙二
1 次のア及びイの理由から、標記の暴力団がその威力をその暴力団員に利用させ、又はその威力をその暴力団員が利用することを容認していると認められるので、標記の暴力団が法第三条第一号に該当すると認めること。
ア 標記の暴力団の多数の構成員が、生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得、又は得ようとするに当たって、標記の暴力団に所属している旨を告げ、その他標記の暴力団に所属していることを利用して恐喝、強要等に当たる行為等を行っていることから、生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得、又は得ようとするに当たって、標記の暴力団の威力を利用していると認められること。
イ 標記の暴力団は、その暴力団員が生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得、又は得ようとすることに関連して、他の暴力団との間に暴力行為を伴う対立を生じさせていると認められること。
2 標記の暴力団の会長以下準若中と称される地位までの幹部である暴力団員の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率が、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行令第一条の表「一六〇人から一六九人まで」の項の比率の欄に定める「6.26%」を超えるものであることから、標記の暴力団が法第三条第二号に該当すると認めること。
3 代表する地位(標記の代表者)、運営を支配する地位(若頭等)及びその他の地位の階層で構成されている団体であることから、標記の暴力団が法第三条第三号に該当すると認めること。
別紙三
1 次のア及びイの理由から、標記の暴力団がその威力をその暴力団員に利用させ、又はその威力をその暴力団員が利用することを容認していると認められるので、標記の暴力団が法第三条第一号に該当すると認めること。
なお、標記の暴力団が聴聞において主張した意見には、標記の暴力団の実質上の目的の認定を左右するものがないと認める。
ア 標記の暴力団の多数の構成員が、生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得、又は得ようとするに当たって、標記の暴力団に所属している旨を告げ、その他標記の暴力団に所属していることを利用して恐喝、強要等に当たる行為等を行っていることから、生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得、又は得ようとするに当たって、標記の暴力団の威力を利用していると認められること。
イ 標記の暴力団は、その暴力団員が生計の維持、財産の形成又は事業の遂行のための資金を得、又は得ようとすることに関連して、他の暴力団との間に暴力行為を伴う対立を生じさせていると認められること。
2 標記の暴力団の会長以下準若中と称される地位までの幹部である暴力団員の人数のうちに占める犯罪経歴保有者の人数の比率が、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律施行令第一条の表「一六〇人から一六九人まで」の項の比率の欄に定める「6.26%」を超えるものであることから、標記の暴力団が法第三条第二号に該当すると認めること。
3 代表する地位(標記の代表者)、運営を支配する地位(若頭等)及びその他の地位の階層で構成されている団体であることから、標記の暴力団が法第三条第三号に該当すると認めること。